トピックス

北海道十勝地方における飼料の専門会社。安全、安心な飼料ご提供を第一に、畜産家の皆様や消費者の皆様のご要望にお応えします。

  1. home

会社案内

タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(8)- 蹄の病気について

 先月まで趾皮膚炎(DD)の原因・病態・治療・予防と掲載してきました。今月は趾間皮膚炎(Interdigital Dermatitis:ID)と趾間過形成(Interdigital Hyperplasia:IH)について掲載していこうと思います。

––– 趾間皮膚炎(ID)とは? –––
 IDとは、趾間(外蹄と内蹄の間)に皮膚炎が起こる病態を意味します。原因は細菌感染であり、様々な細菌が関与しています(病態/細菌を細分化すると情報が多くなりすぎるため、今回はザックリ皮膚の感染症とします)。
 IDは趾間の皮膚に炎症を起こし痛みを生じます。搾乳牛であれば足1本で200kg前後の体重を支えますが、IDを発症していると歩くたび趾間に激痛を生じます。そして下記に掲載する理由で、IDによる趾間の炎症が趾間過形成につながっていきます。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(8)- 蹄の病気について

––– 趾間過形成(IH)とは? –––
 IHとは、趾間に胼胝(べんち)ができる病態を意味します。皮膚が厚く異常形成するため、趾間にタコができると表現されます。では、どのような原因で趾間の皮膚が厚く異常形成するのでしょうか。主な原因は以下の2点と考えられています。

 ①IDや趾間フレグモーネなどの感染症に起因した皮膚の異常形成
 ②趾間の皮膚が持続的な圧力刺激を受け異常形成

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(8)- 蹄の病気について

 上図の①について解説する前に、趾間フレグモーネについて簡単に解説します。フレグモーネに関しては2024年6月のコラムに掲載していましたが、皮下に発生する感染症です。趾間フレグモーネは、趾間から細菌が侵入し蹄の周囲に感染・炎症を起こす病態を意味します(Fusobacteriumという細菌が原因)。
 
 さて、図の①について解説していこうと思います。IDや趾間フレグモーネを発症すると、趾間の皮膚に炎症が起こります。炎症を起こした部位では皮膚が異常形成していきます。この皮膚の異常形成はIDやフレグモーネの治癒過程で厚くなり『趾間過形成』となっていきます。

 次に、②について解説します。趾間の皮膚に炎症を起こすのは感染だけではありません。物理的に外から圧力が加わった場合にも組織が挫滅(ざめつ)し炎症を生じます。成牛において最も圧力がかかるのは自身の体重です。現代の搾乳牛は産次を重ね、3〜4歳になると体重が700〜800kgにもなります。その後も少しずつ成長し体重が増えていくわけですから、成牛の足1本にかかる負担は200kg前後にもなるわけです。つまり産次を重ねた牛や体格の大きな雄牛では、自身の体重で皮膚が挫滅し炎症 →『趾間過形成を助長』というストーリーが出来上がってしまうのです(図②の赤い真皮のように変形していく)。

 IHの治療としては外科的切除や、焼烙という手法が用いられます。ただ、すでに皮膚の深層まで変形が生じてしまっている場合には、切除しても再発することがあります。このような場合には削蹄にて症状を緩和することができます。具体的には蹄の軸側(中心)を削り趾間を広げる事で、趾間にかかる圧を緩和します。

 2024年4月のコラムにて、IHを角質の病気と感染性の病気、どちらにも分類しました。これはIHを発症した過去の要因を振り返ると、上述した①、②という要因があるためです。あれ?何故だろう?と思った方もいると思いますので、こちらにて追記します。

 近年の研究でIHは遺伝的要因もある事がわかってきました。DDとの関連性も示唆されていますが、もし、若齢牛で複数の足に趾間過形成ができる場合には遺伝的要因もあるかもしれません。その場合には、前述した方法で削蹄師さんに趾間を広げるように削蹄してもらうのも一手だと思われます。

 さて、今月は趾間皮膚炎(ID)と趾間過形成(IH)について掲載しました。IDもIHも予防のためには、趾間をキレイにして健全性を保つ必要があります。蹄浴によるコントロールが効果的ですが、牧場により原因/対策は様々です。もし、IDやIHが多いなぁ…と感じる事があれば、上記内容と重なる要因がないか整理してみてください。解決の糸口が見つかる事を願っています。


(文責:牧野 康太郎)

― 参考資料―
① AABP Interdigital Hyperplasia
② Association between a genetic index for digital dermatitis resistance and the presence of digital dermatitis, heel horn erosion, and interdigital hyperplasia in Holstein cows
③ 牛のフットケアと削蹄「チクサン出版社」
④ Genetic parameters for claw disorders and the effect of preselecting cows for trimming