獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(10)- 蹄の病気について
お知らせ

先月に続き蹄底潰瘍について掲載していきたいと思います。先月のコラムには蹄底潰瘍のリスク要因を7つほど掲載しました。その中で『起立時間の延長』と記載しましたが、こちらに関して深掘りを行なっていきたいと思います。
––– 起立時間を延長させる要因とは? –––
起立時間を延長させる要因としては、搾乳待機時間や係留時間などの人的要因も関係しますが、今月は牛舎施設にのみ焦点を当てて行こうと思います。
過去の報告を見ると、以下のような要因で起立時間が延長するとされています。
・敷料の厚さが2cm以下である
・ストール上の敷料が濡れている
・ベッドの長さが短い(=座る表面積が狭い)
3つ挙げた要因のうち、最後の1つは牛舎構造上の条件です。ただ、敷料の厚さや敷料が濡れているという要因においては、日々の業務の中でコントロールできる要因となります。もちろん、ストールが濡れていても牛がストールに寝ている場合もあります。ただ、その場合には横臥時間が短縮し蹄病のリスクが上がる要因となってしまうのです。また、起立時間が延長すると採食回数や採食量の低下につながり生産性を落とす要因ともなります。
牛の横臥時間は泌乳ステージにより異なりますが、1日あたり9〜13時間であれば生産性を保てると考えられています。蹄病予防に限らず、産乳成績や繁殖成績を好調に保つためにも良いストール環境に保つことが望まれます。
さて、少し脱線してしまいましたが、蹄底潰瘍に話を戻します。
––– 蹄底潰瘍の治療とは? –––
どんなに素晴らしい環境であったとしても、不運にも蹄底潰瘍になってしまう事があると思います。蹄治療の手技は技術者によって様々ですが、個人的には以下の2点を大切にしています。
・遊離している蹄角質の全除去
→浮いている角質は全て除去する
・起立時に患部へかかる圧力を逃す(減圧処置)
→削蹄手技やブロックで痛い場所に圧力がかからなくする
先月のコラムにて蹄底潰瘍で痛みを生じる理由は蹄真皮が蹄角質に食い込む事であると記載しました。上記2点は蹄真皮を蹄角質からの圧力や、床からの圧力から逃す事を目的としています。

上図は一例ですが、とにかく遊離している角質を除去+ブロックを用い減圧しています。治療時に真皮まで到達していますが、20日後に再診した時には治療直後の蹄底と同じ形で蹄角質が形成されていました。この理由については、文章量が過多になってしまうので別の機会に話をしたいと思います。
さて…
上記画像は私が獣医師1年目の時に蹄治療を行った際のものですが、お恥ずかしいことに反省点があります。それは、ブロックの接着剤が蹄踵(蹄のカカト)にべったり付着していることです(赤い枠の部分)。蹄踵には蹄球枕と呼ばれるクッションがあります(先月のコラムの解剖画像参照)。牛が歩く際には、蹄踵〜蹄球枕のクッション性があることで蹄への負担を減らしています。そのため、蹄踵に固い接着剤を厚くつけるという事は、クッション性を損なう可能性があるのです。
治療後に跛行は無くなり畜主の方は喜んでくれたのですが、牛さんにはもう少し配慮が必要だったなと反省しています。なお、そのような反省も踏まえて、現在はEVA素材の柔らかいブロックをメインに利用しています。
蹄底潰瘍は早期発見であれば、患部への減圧を考えず溜まった滲出液(しんしゅつえき)や膿を排液するだけで治るという話もあります。ただ、飼養頭数が増えるにつれて、いつから跛行であったのか分からない事例もあると思います。個人的には確実性を求めるため、遊離した角質を全て除去しています。
稀に、蹄治療しているけど治らないから診てほしいと言われる場合があります。この場合には、遊離した角質が残り蹄真皮を圧迫していたり、床からの圧力を逃しきれていない事があります。そんな場合には、牛が歩く時どうすれば患部に圧力がかからないかイメージすると、解決の一手となるかもしれません。
(文責:牧野 康太郎)
― 参考資料―
① Associations between lying behavior and lameness in Canadian Holstein-Friesian cows housed in freestall barns
② Effects of 3 surface types on dairy cattle behavior, preference, and hygiene
③ Effect of following recommendations for tiestall configuration on neck and leg lesions, lameness, cleanliness, and lying time in dairy cows
④ Effect of following recommendations for tiestall configuration on neck and leg lesions, lameness, cleanliness, and lying time in dairy cows
⑤ Associations of postpartum lying time with culling, milk yield, cyclicity, and reproductive performance of lactating dairy cows
⑥ Stocking Density and Feed Barrier Design Affect the Feeding and Social Behavior of Dairy Cattle