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タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(23)- 肢蹄の病気について

 これまでのコラムは肢蹄病と第一胃の解説をメインに掲載してきました。肢蹄病の原因の一つとして外傷(がいしょう)がありますが、不適切な牛の動かし方によっても外傷 → 肢蹄病につながることがあります。例えば、牛追いの際に牛が驚き、足を滑らせ/打ちつけ、蹄底潰瘍や白帯病、股関節脱臼につながる事例です。声を荒げて牛を動かそうとする現場を見ることがありますが、スタッフさんのお話を伺うと『牛が思った通りに動いてくれない』という話をよく伺います。牧場ごとに牛が動いてくれない要因は異なりますが、どのようにすれば牛は動いてくれるのか、なぜ立ち止まっているのか、科学的な目線と過去の事例を交えて掲載していきたいと思います。

––– 牛の動かし方(ハンドリングについて) –––
 牛に目的地へ行ってほしい場合、牛追いすることが多いと思います。この際に牛を追う技術が必要になりますが、意識して欲しいのは以下の3点です。

①ポイント・オブ・バランス:牛が前後どちらに行くか決めるスイッチ
②フライト・ゾーン:牛のパーソナルスペース
③牛の視野と死角

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(23)- 肢蹄の病気について

––– ①ポイント・オブ・バランス:牛が前後どちらに行くか決めるスイッチとは? –––
 牛追いする場合、人が牛の尻尾側に立てば牛は前に進み、人が牛の頭側へ立てば牛は方向を変えるか、立ち止まります。この前後へ誘導する境界点をポイント・オブ・バランスと呼びますが、一般的には『肩』が境界点だとされます。つまり、人が牛の『肩』より尻尾側に立てば牛は前に進み、人が牛の『肩』より頭側に立てば牛は方向を変えるか、立ち止まります。群単位で牛を移動する場合には、人が牛群の先頭から後方に向かう事で、牛の頭側→尻尾側という流れでプレッシャーがかかり、牛が前方へ進んでいきます。

––– ②フライト・ゾーン:牛のパーソナルスペースとは? –––
 生物には他者との間に不快とならない距離感があり、これをパーソナルスペースと呼びます。牛にもこのパーソナルスペースがあり、プレッシャー・ゾーンとフライト・ゾーンと呼びます。牛を中心に円を描いた際に、『近くにいるけど、まだ距離があるから逃げるまでではないな』という中距離をプレッシャー・ゾーン、『めっちゃ近いじゃん!離れよう!』という近距離をフライト・ゾーンと呼びます(フライトは英語でFlight=逃走を意味)。つまり、牛追いする際には、フライト・ゾーンに人が入る ⇆ 牛が離れる と言う作業を繰り返し、牛を目的地へ誘導することになります。

––– ③牛の視野は何度? –––
 牛は正面を向いている場合、おおむね320度が見えていると言われていますが、反対に後方の40度は死角となり見ることができません。このため、牛追いを始める際には、後方40度の死角以外から牛にアプローチする必要があります(人に気が付き首を振るようになると死角は減ります)。

––– 3点のまとめ –––
 上記3点を牛追いに活用する場合、まず①で牛を移動させる向きを決め、②で牛を進行方向に進めるという流れになります。③に関しては、死角から急に人が現れる(=急にフライト・ゾーン内に人を認識)と牛はびっくりしてしまい、足を滑らせたり、打ち付けたりしてしまうため注意が必要です。

 過去の研究を見ると、牛をハンドリングする人が忍耐強くなければ、蹄病が発生しやすいという報告もあります。つまり、常に声を荒げていたり、急激に走らせたり、急旋回させたりすることは肢蹄病の発生にも悪影響を及ぼしてしまうことになります。

––– 牛の1日のスケジュールがハンドリングに影響する事も–––
 忙しい日々の中で、牛が動いてくれないとイラついてしまう気持ちもわかります。ただ、なぜ牛が動いてくれないのだろう?と考えると、単純に牛が疲れて歩きたくないからという事例もあります。
 牛の1日の行動は、寝る・食べる・反芻する・水を飲む・他の牛とのコミュニケーションが大半を占めます(21時間ほど)。つまり、1日24時間から21時間を引いた、残りの3時間のみが人が関与しても悪影響が出にくい時間で、この間に搾乳などを行う必要があります。この牛の1日のスケジュールは Cow Time Budget(カウ タイム バジェット)と呼ばれ、牛にとって快適なスケジュールで過ごしてもらうことが推奨されています。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(23)- 肢蹄の病気について

 実際にあった事例ですが、1日3回搾乳で搾乳時間が5〜6時間かかってしまう牧場さんがありました。この時は、牛がリターン通路で歩くのを止め、牛舎へ戻ってくれず、常にスタッフさんが大声で牛舎へ戻るよう促していました。この牧場さんでは、牛群サイズが大きかったため2つに牛群を分けたところ搾乳時間は短縮 → 搾乳後に牛舎へ戻っていく牛が増えました。それと同時に、スタッフさんが大声で牛を追い立てることも減り、リターン通路で転ぶ牛や蹄病も減っていきました。結果としてみれば、長い搾乳時間に牛が疲れて『もう、歩きたくないよ…』という理由のため、牛舎に戻ってくれなかったという話です。

 近年、海外からの技能実習生を雇用し、牛追いを任せている牧場さんもいらっしゃると思います。牛のハンドリングに関しては、英語とスペイン語で牛追いを学べる『MOOVING COWS』という無料のアプリがありますので、こちらを活用し情報共有するのも一手です。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(23)- 肢蹄の病気について

 牛のハンドリングに関しては牛舎の構造や牛の個性にも影響を受けます。上記内容はベーシックな情報を掲載していますが、牧場にとって最適なハンドリング方法を検討する比較材料としてご活用いただけますと幸いです。人も牛もストレスが少ない日々を送ることができ、生産性が高い牧場経営の一助となることを願っております。


(文責:牧野 康太郎)

ー参考資料ー

① Environmental and behavioural factors affecting the prevalence of foot lameness in New Zealand dairy herds -a case-control study
② Assessment of lameness prevalence and associated risk factors in dairy herds in England and Wales
③ Understanding Flight Zone and Point of Balance for Low Stress Handling of Cattle, Sheep, and Pigs
④ Effect of Animal Grouping on Feeding Behavior and Intake of Dairy Cattle
⑤ Feeding Behaviour