酪農コラム/「炭水化物2~非繊維と牛の健康(1)」
コラム
炭水化物(2): 非繊維と牛の健康
バタズ ケサブ農学博士
日本農産工業株式会社 畜産技術センター(茨城県つくば市)
はじめに
人間でも動物でも脳細胞のエネルギーとなるのはグルコースだけです。人間は血中のグルコース濃度が一定レベルを下回ると意識を失い倒れます。このような状況は糖尿病、マラソンなどの運動、過労、長時間の空腹、食べ物や飲み物の不足、エネルギー供給が深刻な状況の際などに起こり、すぐに食べ物や注射でグルコース源を供給することで状態を的確に改善することができます。エネルギーが足りない状態では、糖新生のプロセスでたんぱく質や脂質を分解してグルコースを作り出しますが、無限にできるものではなく限界があります。炭水化物は体内に蓄積されないので、代謝のためにコンスタントに供給される必要があります。
動物でも同じ仕組みの働きがありますが、反芻動物においてはルーメンから吸収されるプロピオン酸からグルコースを肝臓で作り出すことができます。このため反芻動物の血中グルコース濃度は人間の50%ほどしかありません。乳牛では特に分娩前後や分娩の途中、高泌乳ステージ、弱っているとき、健康でないときはグルコースの代謝は非常に重要です。多くの牧場において日常的に乳牛の静脈に点滴が行われています。ではなぜ乳牛の栄養においてグルコースが重要なのでしょうか?
NFC
非繊維炭水化物(NFC, Non-fiber carbohydrates)には糖、デンプン、ペクチン、β-グルカンの一部が含まれます。これらはさらに水への溶解性によって分類されます。水溶性NFCには単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース)、二糖(ショ糖、乳糖、トレハロース)、オリゴ糖(フラクトオリゴ糖、3~9個のフルクトースがつながったもの)、多糖類の一部(ペクチン、β-グルカン)があります。不溶性のNFCにはより大きな多糖類(デンプン)があります。NFCは非構造性炭水化物(NSC, Non-structural carbohydrates)と区別されずに同じものとして記述されることがありますが、全く同じものではありません。NSCは分析で測定されるものであり、糖、フルクトサン、デンプンが含まれますが、ペクチンは含まれません。一方、NFCは計算で算出されるものであり、ペクチンが含まれます。このため、ペクチンが多い飼料ほど、NSCよりもNFCが大きくなります。
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