トピックス

北海道十勝地方における飼料の専門会社。安全、安心な飼料ご提供を第一に、畜産家の皆様や消費者の皆様のご要望にお応えします。

  1. home

会社案内

タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(10) - 良い牛に育てるために(6)

● 腸の蠕動 ― 消化管が動くことで飲乳欲が現れる
 ここまでで述べてきた通り、初乳の吸収のためには「(生後6時間以内をリミット目安として)出来る限り早く、多くの良質初乳を、汚染無く飲ませる」ことが重要です。しかし、中には全く初乳を飲んでくれない子牛もいます。その原因は何なのでしょうか?そして「初乳を飲んでくれない子牛」にはどう対処すれば良いのでしょうか?

 子牛が初乳を飲まない原因の大部分を占めているのが「第四胃の中に羊水が溜まったままで、胃の膨満感があるから」と言うものです。つまり簡単に言うと「お腹が空いていない」と言うことです。それ以外では、難産だったために子牛がぐったりしている時(=重度の低酸素血症 *1)や物理的な外傷による強い痛みがある時(=難産による肋骨骨折など)にも起こり得ます。
(*1:次回で詳述しますが、低酸素血症による飲乳欲の有無とIgG吸収率とは別問題として考えます)

 生まれたばかりの子牛は第四胃の中に羊水が溜まっていますが、この羊水が小腸に移動するか吸収されない限り、飲乳欲は現れてきませんし、その状態で強制的に投与しても効果的な吸収は困難です(しかし、投与しないよりはした方が良い)。つまり、子牛が初乳を自発的に飲んでくれるようにするには、第四胃から羊水がなくなって子牛が空腹感を覚えなければいけません。そのためには、消化管全体がしっかりと機能的な蠕動を開始し、胃→小腸→大腸へと羊水が移送されるか吸収される必要があります。

獣医/分娩の管理(10) - 良い牛に育てるために(6)

―――消化管の蠕動を促進するには?―――
 それでは、子牛が初乳を飲みたがるように消化管の蠕動を促進するにはどうすれば良いでしょうか?代表的なものは以下の4つです。

 (1) 低酸素血症を防ぐ
 (2) 低体温を防ぐ
 (3) 体表マッサージやリッキングによる血流促進
 (4) 胎便の排出


 このうち、(1)低酸素血症を防ぐことと、(2)低体温を防ぐことが最も重要です。低酸素状態が長く続くことは生体にとって危機的状態なので、このような時は生命維持に重要な臓器である“脳” “心臓” “副腎”への血流が優先され、腸管を始め皮膚や筋肉の血管は収縮して血流が乏しくなります(子牛の科学、2009)。そうなると、細胞が活動するためのエネルギー源や酸素が届かなくなるため、腸の動きは低下します。また、温かい胎内から低温環境の外界に子牛が暴露させると、その「寒冷刺激」によって神経や副腎からノルアドレナリンが放出されますが、ノルアドレナリンは末梢の血管を収縮させるため、各組織は低酸素状態に陥ります。ノルアドレナリンは肺動脈も収縮させるため、肺の機能低下=酸素取り込みの低下=低酸素状態を悪化させます(Baumgartら、1999)(*2)。
(*2:獣医学的により正確に表現すると、肺動脈収縮により肺動脈圧が高まり、卵円孔と動脈管の閉鎖不全が起こることで、低酸素血症が悪化する)

 また、(3)の体表マッサージは、母牛が子牛を舐めること(=リッキング)がまさにそれであり、人が行う場合は乾いたタオルなどで実施します。どちらも体を乾燥させることで、低体温を防ぐ効果もあります。リッキングや体表マッサージにより全身の血流が促進されるため、消化管の蠕動運動も活性化します。

 そして最後の(4)胎便ですが、肛門や大腸(一部は小腸にも)に溜まった胎便が排出されないことで腸の動きが悪くなったり、お腹が張ることで飲乳欲が現れないことがあります。また、胎便は元々ネバネバしていてなかなかスムーズに排出されないこともあるのですが、(1)の低酸素や(2)の低体温の状態が長く続いていた場合、や(3)リッキング不足の場合、腸管の動きが悪くなり胎便が長く留まった結果、胎便の水分が体内に吸収され、さらにネバネバが増して胎便の排出が困難になります。このような時は、肛門を指で刺激することで胎便の排出を促します。もちろん、(1)〜(3)の方法で消化管全体の蠕動を促進させることも有効です。

 なお、子牛が起立して強い飲乳欲が出てくる前でも、指を口に持っていって、弱いながらも指を吸う様な「飲乳欲が出始めている」という時は、50〜100mlと言った少量でもいいので初乳を与えてみることが有効である場合もあります。初乳中のタンパク質やミネラルは消化管を刺激する作用があるので、腸管の蠕動を促進することでさらに強い飲乳欲を発現させたり、胎便排出も促します。

 次回は、低酸素血症についてもう少し詳しく記載します。分娩後、子牛がどのような行動をどれくらいの時間経過で進むのか、それぞれのタイミングで注意すべきはどのようなところなのかについて、お話ししようと思います。