酪農コラム/牛の第四胃変位(続き)
コラム
前回のコラムの後半に出てきた「第四胃変位」についてもう少しお話ししていきたいと思います。
第四胃変位は分娩後1~2か月以内の乳牛がよく発症する病気で、約9割が左方変位だと言われています。第四胃変位の発生には絶対条件が2つあり、専門用語を含んだ表現ですが「運動性機能低下を伴った第四胃アトニーの存在」と「第四胃内ガスの過剰蓄積」が合わさることで起こる病気です。
・第四胃における「アトニー」と「ガスの貯留」とは
「アトニー」という言葉はあまり耳にしない表現かもしれませんが、「筋肉の緊張が衰え、消失した状態。無力症。無緊張症。」という意味があります。
第四胃が正常に動かないと、内容物を小腸へ送り出せず滞留してしまいます。その状態が続くことで異常発酵を起こし「ガス」が貯まり、第四胃が風船のように膨らんで「浮いて」しまいます。
ご覧になったことがある方もいるかもしれませんが、第四胃変位の治療法として牛を仰向けにして行う手術法では、通常、第四胃内のガスを抜かないで胃の位置を元に戻します。そのため手術中にガスでパンパンに膨らんでしまっている(はち切れそうな)胃を見ることがあります。
第四胃がガスで膨らんだ時に第一胃(ルーメン)の容積が小さくなっていれば、お腹の中で浮く空間ができるため第四胃変位が発生しやすくなります。特に左側の空間が広がりますので左方変位になりやすい状況ができてしまいます。
発生が多発する時期(分娩前後)、ルーメンの大きさを確保しておく(=採食量を落とさない)事が予防にとって重要ですので、以前のコラムでご紹介したルーメンフィルスコア(RFS)などを参考に牛を眺めてみてください。
・なぜ「アトニー」になるのか?
絶対条件の一つ、第四胃がアトニーになる要因は下のように数多くあります。
細かい説明は今回省かせていただきますが、各要因には、またその状況になる原因があります。
また牛側の発生リスクも次のように様々報告されています。
第四胃変位は、発生リスク因子と発生メカニズムが複雑に関連しあいながら発症する疾患「多因子性疾患」と呼ばれています。そのため予防策としても多方面からアプローチしていく必要があります。
一方、第四胃変位に対する治療法はほぼ確立されており、内科療法もしくは外科手術が施されています。地域や獣医師の間で差はあると思いますが、経験上、外科手術を選択されている場合が多いのではないでしょうか。
発生割合の目標としては「年間分娩頭数に対して2~5%」や「経産牛の分娩頭数に対して4%以下」などの数字が挙げられています。ちょうど新しい年を迎えました、昨年の振り返りとして分娩頭数・第四胃変位の発生頭数を数えてみてはどうでしょう。
第四胃変位を発症した牛の共通点などを整理していくことで、問題点が見えてくるかもしれません。次回は第四胃変位の牛側のリスク因子でもあるケトーシスについてお話ししたいと思います。