獣医/機能性飼料素材 (4)
コラム
––– 鉱物系吸着剤 –––
鉱物とは、地球を形成する無機質の固体の一部であり、より厳密には「均一な結晶質であること」「自然に生成されること」「特定の化学組成をもつこと」など細かい定義が決まっています(1)。無機物の塊である鉱物の一部には、顕微鏡レベルで見ると小さな孔や隙間がたくさんあり、この様な「多孔質の無機物」は、牛にとって有害な毒素(細菌毒やカビ毒)やガスを吸着する効果があります(2)。鉱物(無機物)ではありませんが、木や竹から作られる「活性炭」も多孔質構造による吸着作用から臭いの除去などに使われることをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。
以上の様な効果から、鉱物系吸着剤は畜産酪農分野で古くから使われている有用な機能性飼料素材です。ゼオライトやベントナイトが有名ですが、ベントナイトをさらに細かく分けていったモンモリロナイトという種類もあります。山を削って採掘することも多く、大型の重機で効率的に行えば製品価格も安価に抑えることができます。単一の鉱物から組成されている製品は少なく、多くは多種類の鉱物が混合されていることで製品ごとの特性が現れます。そのため、鉱物系吸着剤はその鉱物ごとの特性を理解していないと有効な利用に繋がらなかったり、場合によってはデメリットが大きいケースもあります。
以下に、鉱物系吸着剤を牛に利用する際に押さえておきたいポイントを4つ記載したいと思います。
1.多くのベントナイトにおいて、カビ毒の中ではアフラトキシンは吸着できるがゼアラレノンやデオキシニバレノールの吸着は苦手
※焼烙・高熱処理など特殊処理されたベントナイトはこの限りではない
2.ベントナイトに比べ、ゼオライトは孔の大きさが1/100~1/10,000(0.1~1nm)と非常に小さいため、分子量の大きな毒素吸着というよりはアンモニアや硫化水素などのガス吸着に優れる
3.ベントナイトのうち、モンモリロナイトは水を含むと膨らむ「膨潤性」が強く、膨らんだ鉱物の間隙に水と一緒に幾つかのビタミンや高分子成分(アミノ酸など)を吸着してしまう(3, 4)
4.モンモリロナイトのうちCa型モンモリロナイトはNa型モンモリロナイトに比べて膨潤性が低いため、前述したビタミンなど栄養素の生体利用性低下といったデメリットは小さい(5, 6)
鉱物系吸着剤といってもその特徴・特性は上記のように様々あるので、使っている製品が具体的にはどのような鉱物なのか、どの様な処理をされたものなのかは、必ずチェックした方が良いと思います。また、可能な限り製品の能力を裏付ける科学的なデータをメーカーに示してもらった上で利用する様にしたいものです。特に上記の3. は吸着剤を使う上で古くから懸念されていることですが、膨潤性の有無はその製品を水に溶かして膨らむかどうかで簡易的に調べることもできます。
––– 鉱物系吸着剤の使い所 –––
鉱物系吸着剤は毒素やガスの吸着に向いています。
毒素と聞いて思い浮かべるのは「カビ毒」だと思いますが、牛をはじめとした反芻動物は第一胃微生物の影響によって他の動物種に比べて特にカビ毒への抵抗性が強く、カビ毒による悪影響を受けにくいと言われています(7)。オクラトキシンは毒性の低い代謝物として排泄されますし、大半のフザリウム毒素は乳中に排泄されないので、公衆衛生上および食品衛生上の問題にはなりにくいと言われています(7)。一方で、フザリウム毒素を産生するフザリウム属真菌はウシの飼料として一般的なデントコーン・稲藁・小麦などイネ科植物に生育し、代表的な毒素であるゼアラレノンは乳量低下やエストロゲン作用による受胎性低下・不妊の症状を引き起こします(8)。また、最も強力なカビ毒であるアフラトキシンは乳中へ排泄されるため、ウシの健康被害のみならずヒトへの食品衛生上のリスクが高く、生産現場でのコントロールが求められます(7)。
一方で、カビ毒よりもさらに気をつけたいのは「細菌毒」です。上記の通り、カビ毒の中で最も毒性が強いと言われているアフラトキシンですが、多くの細菌毒はその数100〜10,000倍は強力です(※)。つまり、より少量でウシの命を奪ってしまう細菌毒こそ、本当は吸着剤で防ぎたいものです。特に生後間もない子牛に細菌が感染すると、臨床症状が出てすぐ抗生物質や輸液を含む治療を開始しても治療が長引いたり、最悪のケースでは死亡に至ってしまうことは少なくありません。これは、抗生物質で細菌そのものは殺せてもその細菌から出た毒素は腸管内や体内に残っているため、毒素による悪影響が長く続くからです。これを防ぐには、一定期間にわたって予防的に吸着剤を給与することが効果的です。生後間もない下痢症の原因が細菌感染症(多くはClostridium perfringensや病原性大腸菌)である農場では、利用を検討してみてはいかがでしょうか?
※ マウスにおける致死量(=LD50:1回の投与で実験群の動物の50%を死亡させる投与量)で比較した場合、アフラトキシンB1とC. perfringensのエンテロトキシンでは体重1kgあたりで以下の違いがあります。
・アフラトキシンB1:5,500〜7,200 µg/kg
・エンテロトキシン :3〜5 µg/kg
マウスを死に到らせるためには、アフラトキシンはエンテロトキシンの1,000倍以上が必要なことから、エンテロトキシンの方が少量で強力な毒性を発揮することがわかります。
― 参考資料―
(1) 地層科学研究所, 「鉱物(mineral)って何?」(https://www.geolab.jp/documents/science/science-007/)
(2) Mumpton FA, 1999. Uses of natural zeolites in agriculture and industry. Proceedings of the national academy of sciences of the United States of America. 96:3463-3470.
(3) Kihal A. et al., 2021. Quantification of the Effect of Mycotoxin Binders on the Bioavailability of Fat-Soluble Vitamins In Vitro. Animals 11(8):2251.
(4) Kihal A. et al., 2019. In vitro assessment of the capacity of certain mycotoxin binders to adsorb some amino acids and water-soluble vitamins. J. Dairy Sci. 103:3125–3132.
(5) Afriyie-Gyawu E. et al., 2008. NovaSil clay does not affect the concentrations of vitamins A and E and nutrient minerals in serum samples from Ghanaians at high risk for aflatoxicosis. Food Addit Contam Part A Chem Anal Control Expo Risk Assess 25(7): 872-884.
(6) Phillips TD. et al., 2008. Reducing human exposure to aflatoxin through the use of clay: a review. Food Addit Contam Part A Chem Anal Control Expo Risk Assess. 25(2):134-45.
(7) Boudergue C. et al., 2009. Review of mycotoxin-detoxifying agents used as feed additives: mode of action, efficacy and feed/food safety. EFSA Supporting Publications. 6(9):22E.
(8) D’Mello, JPF. et al., 1999. Fusarium mycotoxins: A review of global implications for animal health, welfare and productivity. Anim. Feed Sci. Technol. 80:183–205.