獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(9)- 蹄の病気について
コラム
先月まで感染性の蹄病について掲載してきました。今月から非感染性の蹄病(角質病変)について掲載していこうと思います。
––– 非感染性の蹄病(角質病変)とは? –––
非感染性の蹄病とは、その名の通り感染が原因ではない蹄病のことで、具体的な病名を挙げると蹄底潰瘍や白帯病です。今月のコラムは蹄底潰瘍について掲載していきたいと思います。
––– 蹄底潰瘍とは? –––
蹄底潰瘍とは、蹄真皮と蹄角質が分離した状態を指します。
上図には、正常蹄の解剖図と蹄底潰瘍であった症例を掲載しています。何の疾患もない正常な蹄底では蹄真皮と蹄角質が結合しています。しかし、蹄底潰瘍になると蹄真皮と蹄角質が分離し隙間が出来ます。上図の症例では治療がかなり遅れ外蹄の蹄角質がほとんど蹄真皮と分離していました。
さて、蹄底潰瘍になると、なぜ強い痛みが生じるのでしょうか?それは、蹄真皮が蹄角質の隙間に入り込み、圧迫を受けるからとされています。イメージで言うとヒトの爪に穴が開いた状態で、床に爪を押し付けながら歩いているようなものです(考えるだけで痛々しいですね…)。
上図は蹄底潰瘍であった蹄を縦断面で切断したものです。赤丸が蹄底潰瘍の部位を示していますが、蹄真皮が赤く腫れ炎症を起こしている様子が見られます。牛が歩く際には、末節骨(まっせつこつ)と呼ばれる蹄の骨が蹄真皮をさらに圧迫(緑矢印)→ 蹄真皮が蹄角質に食い込み激痛を生じてしまうのです。
では、蹄底潰瘍はなぜ発症するのでしょうか?蹄底潰瘍になるリスク要因としては、以下が考えられています。
・起立時間の延長
→蹄への負担増
・糞尿への汚染(=蹄がふやける)
→蹄角質が柔らかくなり摩耗し、蹄底が薄くなる
・外蹄と内蹄の形(厚さ/幅)が異なる
→負重がアンバランスになり片方の蹄への負担が増える
・蹄踵(ていしょう:蹄のかかと)や蹄球枕が薄い
→蹄のクッション性が弱くなる
・末節骨の変形や血流障害
→蹄角質が正常に形成されなくなる
・ルーメンアシドーシス
→毒素が蹄真皮と蹄角質の結合を弱くする
・遺伝形質
これまで多くの研究者により様々な蹄底潰瘍の原因が調査されてきましたが、最終的な結論は出ていないようです。長年言われてきたルーメンアシドーシス → 蹄葉炎 → 蹄底潰瘍という通説に対しても否定的な考えが出てきており、今後更なる研究が望まれています。
また、上記要因の他に牛舎環境に起因する蹄底潰瘍を目にする事もあります。滑りやすい床で牛が滑り蹄底を強打したり、スクレーパーを牽引するチェーンを踏みつける事で蹄底が傷ついたりする事でも蹄底潰瘍になります。早期発見した場合には蹄底出血と判断されますが、放っておくと蹄真皮と蹄角質が分離し蹄底潰瘍になります。
蹄底潰瘍はヒトに例えると『長靴の中に石を入れて歩いている状態』とも言われます。農場により蹄底潰瘍が起こる要因は様々ですが牛の安楽性を保つためにも、うまくコントロールしていきたいものです。もし、蹄底潰瘍が多いと感じる場合には前述したリスク要因と重なる部分がないか精査してみてください。
(文責:牧野 康太郎)
― 参考資料―
①Sole ulcers – Large Animal Surgery – Supplemental Notes
②Risk Factors Associated with Foot Lameness in Dairy Cattle and a Suggested Approach for Lameness Reduction
③Moisture Content, Thickness, and Lesions of Sole Horn Associated with Thin Soles in Dairy Cattle
④A prospective cohort study examining the association of claw anatomy and sole temperature with the development of claw horn disruption lesions in dairy cattle
⑤Suspensory structures and supporting tissues of the third phalanx of cows and their relevance to the development of typical sole ulcers (Rusterholz ulcers)