酪農コラム /「水-安い栄養素?(1)」
コラム
タイセイ飼料の部田(とりた)と申します。いつもタイセイ飼料をお引き立て頂き誠にありがとうございます。
この度、タイセイ飼料の酪農コラム連載という事で、まずはDr. Keshab K. Batajooさんの乳牛の栄養学を載せて頂く運びとなりました。
ネパール出身のDr,Batajooさんは、パキスタン大学を卒業後、米国ウィスコンシン州立大学にて博士号を取得されました。1995年に来日され、農水省畜産試験場(筑波)にて科学技術庁特別研究基金研究員を経て、現在の日本農産工業(株)研究開発部に所属、日本飼養標準やNRC2001年にも炭水化物の文献が引用されております。タイセイ飼料とは、20年以上の付き合いになり、酪農のお客様が増えているのも博士のお陰と言って過言ではありません。
学会も含めプライベートでも世界各国を旅しているDr,Batajooさんから、他国の話を聞く事は大変参考になり、その中で“日本は豊かな国”という事をよく言われます。栄養は“足らないとか足りている”という評価を致しますが、その目で見えている部分は氷山の一角で、体の中では理解のしがたい代謝システムが顕在し、本当の原因はその水面下にあるという事を教えてくれます。また、豊か過ぎるが為に、与え過ぎている問題もあるという事も教えてくださいます。
Dr,Batajooさんには資料の提供と、恐縮ながら私がスライドにまとめさせて頂いた内容を、コラム掲載する事に対し快諾して頂いたことを感謝いたします。
この酪農コラムが皆様のお役に立つことを願いつつ、ご挨拶とさせて頂きます。
はじめに
水(H₂O)は六つの主要栄養素のうちで生命にとって最重要であり、体を構成する割合が高いものです(ほかの五つの栄養素は、炭水化物、蛋白質、脂肪、ミネラル、ビタミン)。
哺乳類の体内において、水は代謝と冷却の二つの面で重要な働きを担っています。体内でのすべての化学的な代謝経路に水が必要ですし、多くの動物において体が熱くなりすぎないよう冷やす方法は、呼吸や発汗など、水分を蒸発させることによるものです。
水は生命の源
動物は飼料を食べなくても、しばらくの間は生きていけますが、水を飲めないと、それよりも短期間のうちに死に至ります。生まれたばかりの子牛の体は70%が水ですが、太った乾乳牛では56%と低く、逆に泌乳中の乳牛では81%にもなります。体内の体内の水分割合は動物の年齢と成熟度によって変わり、とくにその動物が肥っているほど水分割合が低くなります。
水は排泄物に多量に含まれているほか、乳の大部分を占めているため、乳牛はほかの動物よりも、たくさんの水を必要とします。しかし、この安くて手軽に与えられる栄養素が、実際には軽視されがちです。
体の組成では、炭水化物は極めて少なく、肝臓、筋肉、血液などに、わずかに含まれる程度です。乳牛のルーメン内の水はどんどん入れ替わっており、ルーメンの容積を維持するには、いつでも水が供給されなければなりません。羊では、水分子がルーメンに滞留している時間は、たったの61分であることがわかっています。
(次回へ続きます)