獣医/分娩の管理(2) - 優良な子牛を獲得するために(1)
コラム
繁殖農家さんや一貫肥育農家さんにとっては、健康でスクスク育つ子牛の獲得こそが安定経営の第一歩であることは自明かと思います。また、酪農家さんにとっては、将来の牧場を支える後継牛の獲得という意味において、やはり健康で繁殖能力の高い子牛が必要です。
健康な子牛を獲得するためには、分娩前からの母牛の健康管理が重要であることはみなさん良くご存知かと思いますが、では、具体的に「何が」「どれくらい」「なぜ」大事なのでしょうか?
細かい話は後からにしますが、ポイントは以下の3点です。
(1)妊娠末期2ヶ月の高い栄養状態は、胎子成長と新生子期免疫機能にとって重要
(2)その期間に胎子側で大きく成長するのは筋肉(+サシのもとになる細胞)
(3)妊娠初期の低栄養では、胎子の筋細胞数が増えず、将来の卵胞数も少なくなる
まず(1)ですが、下図1の様に胎子は妊娠末期2〜3ヶ月で大きく体重が増加してきます。
この時、生後の免疫の中心的役割を担う「胸腺」も大きく発達しますが、その成長には「アミノ酸」が重要であると言われています。アミノ酸はタンパク質が分解されて出来るものなので、母牛がタンパク質不足では胎子の胸腺は十分に発達しません(Savinoら、2002)。胸腺は生後の7-8週まで発達を続けますが(Richardsonら、1991)、免疫系細胞のほとんどは胎子末期に急激に分化・増殖するので、妊娠末期の母牛の低栄養(特に低タンパク質)は、胎子発育にとって大きな負の影響を与え、出生後の死亡リスクを高めます(田波ら、2009)。
また、出生時体重の軽い子牛では免疫細胞の数が少ないことも分かっており(下図2)、さらに、ストレスがかかった時に増加するホルモンであるコルチゾールは、胸腺の細胞を死に誘導することがわかっているため(Scudelettiら、1996)、母牛の空腹ストレスや粗悪な環境での管理によるストレス、子牛の生後ストレス(各種疾病、粗悪環境)は、胎子期〜新生子期の免疫機能を低下させます。
以上の様に、妊娠末期の母牛の低栄養は胎子発育と新生子発育にとって、多くの負の影響を与えるため、特にタンパク質の充足は極めて重要です。生後の子牛が虚弱で疾病や死亡が多い牧場さんでは、分娩前2ヶ月の増し飼いでタンパク質を強化してみることをお勧めします。
次回は(2)についてお話しします。肥育農家さんも気になる「サシ」にも関わるお話しです。