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タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(12)- 蹄の病気について

 先月まで蹄底潰瘍・白帯病などの短期的に発生する角質病変について掲載してきました。今月は問題となるまでに数ヶ月を要する横裂蹄について掲載していこうと思います。

––– 横裂蹄(Horizontal Fissure)とは? –––
 横裂蹄とは、蹄壁と垂直にひび割れが入っていることを意味します。ただ、見つけた時にひび割れ始めたわけではありません。これを説明するには、蹄の成長について理解する必要があります。

 先月のコラムにて蹄壁は蹄縁角皮の真皮乳頭から形成されると掲載しました。つまり、蹄縁角皮から蹄先に向けて蹄壁は伸びてくることになります。
 蹄壁は1ヶ月間で概ね5mmほど伸びると言われています。仮に成牛の蹄壁の長さが8〜9cmとすると、蹄壁が完全に入れ替わるには17ヶ月前後必要となります。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(12)- 蹄の病気について

 横裂蹄は蹄縁角皮で正常に形成されなかった蹄壁が蹄先方向に成長した結果見られる病態です。つまり、横裂蹄は見つけた時にひび割れ始めたわけではなく、数ヶ月前に亀裂が入ったまま形成された蹄壁が時間を経て蹄先方向に成長してきた結果なのです。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(12)- 蹄の病気について

 横裂蹄は時間を経て蹄先に向かいますが、横裂蹄から蹄先にかけての蹄壁は徐々にぐらつき始め、それに伴い痛みを生じるようになります。人で例えるのであれば、指先の爪が剥がれグラグラしているような状況です。横裂蹄になっても、蹄壁がうまく結合している事例もありますが、結合が脆い場合には蹄壁が剥がれ痛みを生じます。

 では、横裂蹄になる要因、つまり、蹄縁角皮から蹄壁角質が正常に形成されない要因はどこにあるのでしょうか?過去の報告を見ると以下のような要因が挙げられています。

 ・栄養状態の悪化
 ・分娩(蹄の形成よりも胎子にエネルギーが優先される)
 ・病気による体調不良

 いずれの要因においても蹄壁の角質形成に割くエネルギーが減り、正常に蹄壁角質が作られなくなります。

 余談ですが、これは蹄角質のみではなく、頭についている角でも同じことが言えます。除角していない繁殖牛では、分娩を重ねるごとに角にリング状の段差が増えていきます。これは分娩前後で胎子にエネルギーを優先し、角の形成に割くエネルギーが減ることが要因となります。

獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(12)- 蹄の病気について

 私は2024の夏、横裂蹄に起因する蹄治療を複数頭行いました。そのどれもが、蹄縁角皮から5〜6cmほどの場所が横裂蹄となっており、蹄壁の裏(蹄葉〜蹄真皮)が挫滅(ざめつ)していました。
※挫滅:圧迫や衝撃で組織が破壊されること

 なぜ、同じような位置に横裂蹄があり、蹄深部が挫滅したのだろう?と考えた際に、2023年の夏が耐えられないほどの酷暑であった事を思い出しました。

 前述したように蹄壁は1ヶ月間で5mm程度伸びますので、1年間で蹄壁が伸びる長さは5〜6cmほどになります。2023年の夏に蹄縁角皮でダメージを受けひび割れた蹄壁は成長し、2024年の夏には5〜6cmほど蹄先方向へ向かいます。つまり、私が2024年に治療した横裂蹄に起因する蹄病の原因は、2023年の酷暑にあったと考えられるのです。

 横裂蹄になる要因の一つとして『栄養状態の悪化』と前述しましたが、2023年の夏には酷暑による採食量減少や呼吸回数増加が認められていました。そして乳成分も低下し、牛のエネルギーを産生する第一胃の微生物叢にも暑熱のダメージがあることが伺えました。
 
 このように特定の蹄病が発生する場合には、その原因が長期的である事例もあります。1頭1頭の蹄の形状を見ながら、『なぜこのような蹄形になり、蹄病になるのであろうか?』と考えると、原因解析の一助となるかと思われます。


(文責:牧野 康太郎)

― 参考資料―
① Hoof Wall Cracks in Cattle
② The Dairyland Initiative