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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(5) ― 良い牛に育てるために(1)

 ここで一度、これまでの話をまとめてみましょう。

 このコラムの中では、繁殖管理の中で「分娩」というイベントの立ち位置を、以下の3つに分けて考えています。

(1)「子牛を獲得する」という目的のゴール
(2)「良い牛に育てる」という目的のスタート
(3)「次の妊娠・分娩」という目的のスタート


 このうち前回までは(1)のお話をしてきました。(1)では優良な子牛を獲得するためには分娩前からの母牛の健康管理が重要であるということを、以下の3つの理由からお話ししました。

(ⅰ)妊娠末期2ヶ月の高い栄養状態は、胎子成長と新生子免疫にとって重要
(ⅱ)その期間に胎子側で大きく成長するのは筋肉(+サシのもとになる細胞)
(ⅲ)妊娠初期の低栄養では胎子の筋細胞数が増えず、将来の卵胞数も少なくなる


 この3つは今回以降のお話しである(2)「良い牛に育てる」というところにも関わってきますが、子牛がいい牛に成長していくためには、“生まれたてからの管理だけではどうしても変えることができないことがある”ということを示しています。つまり、生まれた後の子牛が思った様に発育してくれなかったり、病気がちだったりした時、その原因は胎子期にあるかもしれません。胎子期に特定の遺伝子がしっかりと役割を果たしてくれなければ、その影響は生まれてからも一生続きます。

 これには母牛の飼養環境、特に栄養状態が大きく関わっていることを前回まででお伝えしましたが、(種雄牛も含めて)親牛からの「遺伝」とは異なります。皆さんよくご存知の「遺伝」とは、精子と卵子によって親から子へ受け継がれるものであり、子はその後も一生にわたって影響を受け、かつ、変化しないものです。

 一方で、これまで紹介してきた様な胎子期の現象は「遺伝的(genetic:ジェネティック)な影響ではないが、子のその後の一生にわたって影響を与える(*)」という意味で「エピジェネティクス epigenetics」と呼ばれています。
(*:正確には、胎子期に限らず “DNA配列を変えずにDNA修飾に関わる変化” を広く「エピジェネティクス」と言います。小難しいので、上記では理解しやすくするためにちょっと表現を簡素化しました)

 エピジェネティクスの概念の中に含まれる言葉としては他に

 ・胎子インプリンティング
 ・胎子プログラミング
 ・代謝インプリンティング


などもあります。どこかで聞いたことがある人もいるかもしれませんが、どれも似た内容を表現しています。「インプリンティング = すり込み」「プログラミング = 設計、編成」という意味であり、エピジェネティクスと同様に「遺伝的変化ではないが、遺伝子に影響を与える変化」と考えることができます。

 う〜〜ん、難しい……頭が痛い……

 ということで、小難しい話はここまでにして、次回以降はより実践的に「良い牛に育てるスタート」の話をしていきたいと思います。生後初期の成長期も胎子期ほどではありませんが、多くの遺伝子が発現してくるため、エピジェネティックな変化を受けやすい極めて重要な期間です。「生後のエピジェネティクス」も含めて話をしていきたいと思います。

獣医/分娩の管理(5) ― 良い牛に育てるために(1)