酪農コラム /「炭水化物~繊維と乳牛の健康」(最終回)
コラム
「炭水化物~繊維と乳牛の健康」(全3回)の最終回となります。
繊維不足
繊維が不足する状況はフリーストール、繋ぎ飼い牛舎のどちらにおいても多くの牧場で一般的に発生しています。繊維や粗飼料を誤った考え方で給与して乳牛が不健康になっている状況を私たちは酪農の現場においてしばしば見かけます。乳量を増やすために飼料の粒度を小さくし繊維の量を少なくしようと試みると、乳牛は噛む回数が減り唾液の量も減少します。TMR給与において細かくなった粗飼料は大きな問題です。ほとんどの場合、粗飼料は摂取量に影響を与えないほど細かくされ、細かすぎるためにルーメンの機能を刺激できなくなっています。唾液の分泌量が少ないことは乳牛の代謝病の多くに関連しています。短い繊維だけを食べている状況にある乳牛は長い粗飼料を自由摂取したがっていることが現場での観察によってわかります。
発展途上国において、反芻動物の飼料として主に用いられているのは低品質の繊維と穀物の副産物です。穀物そのものが給与されることは少ないです。日本で見られる代謝病の多くは発展途上国ではほとんど見られませんが、穀物が不足しているこれらの国々において家畜は高いパフォーマンス(生産性)を出すことはできません。逆に、日本においてパフォーマンスが低い牧場では往々にして繊維不足が原因となっているケースが見られ、さらに穀類やサプリメントの過剰給与が原因として組み合わさっていることもあります。私たちは乳牛が本来草食動物であることを忘れて、乳牛の代謝システムを乱してしまいがちです。
繊維の長さと唾液の量は人間の健康にとっても重要です。食品の調理方法の変化とファストフード文化によって日本人の噛む回数と唾液の量が減っており、これが多くの代謝病を引き起こしていることが最近テレビで放映されました(2014年11月4日、テレビ朝日)。それによると、同一の被験者でも肉や野菜のカットが大きくなると、噛む回数が620回から800~1,400回に増え、1分間の唾液の分泌量も0.3mlから1.3mlに増えました。
現場での実例
パフォーマンスが低く代謝関連病で事故率の高い牧場では、「牛群のうち何割の牛のルーメンが空っぽか」を見るべきです。その割合が高いのであれば、ステップを1段階戻して給与メニューを考え直すことを私は薦めます。最も優先すべきは弱い牛だけを分けてグループを作り、ルーメンが張ってくるまで粗飼料中心のメニューで一定期間飼育することです。粗飼料を自由摂取させることとTMRであればミキシング時間を減らすことも良い影響があるでしょう。
穀類やサプリメントの給与量が多く、充満度が低くて十分に機能していないルーメンの乳牛たちに対し、給与メニュー中の粗飼料を増やすと、数か月間で生産性が上がり健康になる実例を私は見てきました。十分な粗飼料を給与することはどんなサプリメントにも置き換えることはできません。私たちは、乳房のことよりもルーメンのことをもっと気にかけるべきです。ルーメンが充満していることは重要なことであり、空っぽのルーメンは多くの病気をもたらします。
まとめ
高泌乳牛に給与するときには、第一に最低限の繊維要求量を満たすべきで、エネルギーは二の次でなければなりません。このシンプルで基本的な原則は酪農の現場において頻繁に見落とされてきました。飼料中の炭水化物についてトラブルシューティングをするのであれば、最低限の繊維と粗飼料が給与されているかをまずチェックすべきです。
(「炭水化物~繊維と乳牛の健康」おわり)