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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(15) - 良い牛に育てるために(11)

初乳の吸収率をさらにアップさせる方法
 初乳の吸収率を高くする方法は、過去のコラムでもご紹介しました。その内容を簡単に振り返ると「初乳と環境の汚染をなくすこと」と「生後6時間以内に十分量を給与すること」でした(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=40)。

 ここで注意して頂きたいのは、この2つは病気に強い子牛として育てるための「最低限の基準である」という点です。上記を実践せずにこれからご紹介する方法をとられても、大きな効果を実感できない可能性が高いです。あくまで基本は「初乳と環境の汚染をなくす」「生後6時間以内に十分量を給与する」です。

 では、貴重な初乳中の免疫グロブリン(IgG)をさらに効率よく吸収するためにはどうすれば良いでしょうか?これから2つご紹介したいと思いますが、両者ともに私が行く農家さんの多くがどちらか一方または両方を実践しており、費用対効果の高い手法であると感じています。

(1)コウシのミカタ®(ニッテン配合飼料)
初乳用の添加剤として初乳に粉末状の製品を混ぜて子牛に飲ませると、DFAⅢという特殊なオリゴ糖の効果で初乳中の免疫グロブリンの吸収が促進されます。過去の研究論文の報告では、初乳の吸収率が約10ポイント上昇しています(DFAⅢ 0g:26.0% → 6g:36.2%、生後1.1〜1.2時間で初乳給与)(Sato、2021)。

 通常、生後6時間以内の自然哺乳であれば、IgG吸収率は25-30%の値を取ることが多いですが(Osaka、2014)、「コウシのミカタ®」を初乳に混ぜて与えることでその吸収率は6〜10ポイントも上昇します。これは前回の話で言うと、生後24時間後の血清IgG濃度のターゲットを和牛のFPTラインである20mg/mlとした場合、必要な初乳中のIgG量が30〜50g少なくてよい計算になります(体重30〜50kgの場合)。さらに、疾病に強いとされる30mg/mlをターゲットとした場合では同様に45〜80g少なくてよく、30kgの子牛ではIgG必要量が200g前後となります。このIgG量は、製品によっては「初乳製剤3袋」で足りる量なので、それによって病気が大きく抑えられることを考えると、非常に費用対効果が高いです。

獣医/分娩の管理(15) - 良い牛に育てるために(11)

(2)バイパスコリン製剤(例:ルーメンパスコリン)
 こちらは繁殖母牛に与える添加剤です。分娩予定日の3週間前から餌に混ぜて与えることで、

1.初乳中の免疫グロブリンが増加する
2.初乳が子牛に吸収されやすくなる
3.生後子牛の疾病少なく発育が良い


といった効果が得られることが分かっています。詳細は後述しますが、ある報告ではIgG吸収率は6ポイント以上アップします(28.1% vs 21.8%)。

 コリンとは、ビタミンB群に分類される栄養素で“ビタミン様物質”とも言われています。そのまま与えても第一胃内で分解されてしまうため、そうならないように加工(ルーメンバイパス加工)されているものが効果を発揮します。全身、特に肝臓での脂質の代謝を助けることが分かっており、脂肪肝の予防・治療に効果があり、脂肪壊死症にも効果的であると考えられています(泉ら、2011)。

 そんなコリンですが、あるチームの報告(Zenobi、2018)によると、分娩前3週間わたってルーメンバイパスコリンをホルスタイン経産牛46頭に給与した結果、投与しなかった47頭と比較すると、上記のような効果があることが報告されています。具体的に以下でご紹介します。

1.コリンを与えた牛とそうでない牛で、初乳の生産量は9.4kg vs 8.7kgと差がなかったものの、初乳中のIgG濃度は86.9mg/ml vs 68.2mg/ml、一頭あたりの初乳中IgG総量は702g/頭 vs 490g/頭と、共にコリン投与によって大きな差が認められました。

2.コリンを給与された母牛から得た初乳を飲んだ子牛と、そうではない通常の初乳を飲んだ子牛を比較した結果、IgGの吸収率は28.1% vs 21.8%と、コリン給与された母牛の初乳で高い値となりました。この試験でユニークなのは、コリン給与された母牛から生まれた子牛であるかどうかは関係なかった、と言うことです。たとえコリン給与されていない母牛から生まれた子牛であっても「初乳そのものにコリンが効果的に作用しており、その初乳は吸収が良い」ということが分かりました(下図2)。なお、コリンがどの様に作用して初乳の吸収が良くなったかは分かっていません。

獣医/分娩の管理(15) - 良い牛に育てるために(11)

3.初乳の種類に関係なく、胎子期に母牛にコリンが給与されていた子牛ではそうでない子牛に比べて、発熱の回数が少なく(31回/群 vs 58回/群)、ミルクの飲む量が多く(748g/頭/日 vs 704g/頭/日)、スターター摂取量が多く(54g/頭/日 vs 45g/頭/日)、増体速度が速い(0.531kg/日 vs 0.462kg/日)という結果になりました。

 この報告を行ったチームが別の機会で発表しているデータでは、子牛の生存率にも大きな違いがありました。コリン給与なしの母牛から生まれた子牛に通常の初乳を飲ませた場合、生後24日間で33頭中10頭もの死亡が出た一方、コリン給与された母牛から生まれた子牛にコリン給与母牛の初乳を与えると、同じ飼養環境にも関わらず25頭すべてが生存し、24日間で死亡がゼロという結果でした。この実験系において、コリン給与が無い群での死亡率が30%以上というのは通常では考えられないくらい高く、飼養管理上の大きな問題があるだろうとは思うのですが、そういった管理下でもコリンの効果は非常に高いのではないかと推察されます。

 なお、バイパスコリン製剤は使う製品によって推奨給与量が異なるため、具体的な投与量はお示しできません。A飼料ということもあり製品中のコリンの量が明示されていないものばかりですので、まずは各メーカーさんの推奨給与量で実践するのが良いかと思います。