酪農コラム/炭水化物4~乳糖の生成(2)
コラム
「炭水化物4~乳糖の生成」(全3回)の2回目です。
グルコースは乳の生成に絶対に必要なもので、他の糖や他の成分では置き換えることができません。ルーメンでは糖やデンプンからプロピオン酸が作られ、吸収された後に肝臓に運ばれます。肝臓でプロピオン酸からグルコースが作られます。グルコースのおよそ45~60%はプロピオン酸から肝臓で生成、5~20%は小腸からの直接吸収、残りは特に泌乳初期にアミノ酸を材料に糖新生によって作られます。血中のグルコースの60~70%は乳生産に直接使われます。乳腺において血中のグルコースの一部からガラクトースが作られます。つまり、乳糖1分子を生成するには2分子のグルコースが必要です。NFCの供給源と量が乳糖の生成に直接影響します。NFCの供給量を減らすと乳糖の生成が減り、乳生産の低下につながります。
乳糖生成には2つの蛋白質も必要です。α-ラクトアルブミンとガラクトシルトランスフェラーゼという酵素です。乳腺でのα-ラクトアルブミンの分泌が乳糖生成の度合いをコントロールしています。α-ラクトアルブミンは泌乳中の乳腺でのみ生成され、インスリン、ハイドロコルチゾン、プロラクチンのようなホルモンによって制御されています。逆にプロジェステロン(妊娠中に分泌されるホルモン)はこれを抑えるため、妊娠した後は乳生産が減少しやすくなります。乳糖は乳腺の細胞で乳たんぱく質と一緒に合成されます。
プロピオン酸⇒グルコース
グルコース + ガラクトース⇒(※)⇒乳糖(β-1.4結合)
※乳糖合成に必要な蛋白質:ラクトアルブミン+ガラクトシルトンスフェラーゼ
乳糖合成にはリミットがあります。それは栄養バランスだけではなく、生理的な要因もあります。親付けの場合は、子の成長に合わせて乳量を減らします。親付けしていない場合は、次の出産準備に合わせて乳糖合成を減らし、自然に乳糖を減少させます。
乳糖は乳生産の主要な浸透圧調整因子であり(およそ50%)、浸透圧の残りの部分はミネラル(カルシウム、ナトリウム、塩素)のイオンが影響しています。つまり、乳腺で生成される乳糖の量は乳中に取り込まれる水の量を大きく左右し、乳量に大きく影響します。ただし、乳房炎の時は乳糖合成が減少し、ミネラル(ナトリウム・塩素)が増加します。
ほとんどの動物種において乳中の乳糖の割合はほぼ一定です。しかし、乳牛のように高乳量のために選別されてきた動物では炭水化物の消化や吸収の差によって乳糖の生成にはある程度のバラツキが発生します。乳糖のバラツキは、乳脂肪と乳蛋白質より小さく変動します。この微妙な変動には、栄養バランスの大きなシグナルがみられます。
乳生産量は、乳腺の血流量と直接的に関係していることが示されています。
乳を生産するために、その約400~500倍の量の血液が乳房を通過します。例えば、30kgの乳を生産する牛では1万2,000リットルの血液が毎日乳房を通過します。分娩の2~3日前には乳糖生成と乳生産の準備のために血流量は乾乳期の2~6倍に増加します。
乳糖の加工
乳糖はチーズ製造工程の副産物です。乳を凝固させ、濾した後に残る液体がホエイ(乳清)です。ホエイには6.5%の固形分が含まれ、4.8%は乳糖です(ホエイの固形分の約70%が乳糖ということになります)。ホエイをろ過すると乳糖と様々な機能性の蛋白質が得られます。乾燥させた乳糖は幼児向けの特殊調整粉乳やスポーツドリンク、ケーキ、医薬品など人間向けのほか、動物用飼料の原料として使用されています。
乳糖不耐症
ほ乳類の幼児の小腸絨毛ではラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)が分泌されていて、乳糖のβ-1,4結合を壊してグルコースとガラクトースの2個の糖に分けることができ、これらを小腸で吸収することができます。幼児が成長し乳を摂取する頻度が低下するとラクターゼの分泌量は減っていきます。
ヨーロッパ、西アジア、南アジア、東アフリカ出身の人々の多くは食糧のうち一定割合を乳が占めており、そのため、大人になってもラクターゼの分泌が継続しています。乳糖不耐症の人は乳糖を分解することができず、腸管内のガス産生微生物に食べ物を与えることとなってしまい、下痢、ガスが溜まる、腹が張るなどの腸管に関する異常を発生します。乳糖不耐症は成熟した動物でも若い動物でも、また小腸でラクターゼを分泌しない動物種においても発生します。
(つづきます)