獣医/分娩の管理(19) ― 良い牛に育てるために(15)
コラム
––– 初乳に影響を与える母牛側の要因 (続き)–––
● 血中IgG量
こちらは以前のコラム(初乳中のIgGを増やす方法 –– 2.分娩前母牛へのワクチン投与:http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=58)でも少し触れましたが、もう一度詳しくご紹介します。
初乳中の抗体の大部分は、母牛の血液中から初乳中に移行してきます(Larsonら、1980)。抗体には何種類か存在し、そのうち「血液→初乳」と移行するのはIgGのみです。牛ではIgGが初乳中の抗体の80〜90%を占めるため、初乳中の抗体においてはIgGの量が非常に重要になってきます。なお、牛ではIgGはさらにIgG1とIgG2に分けられ、IgG1がメインになります。
一方、他の抗体としてはIgAやIgMというものが存在しますが、これらは乳腺上皮に存在する免疫細胞が分泌すると考えられており、血液からは移行してきません(Devery-Pociusら、1983)。
以上より、初乳中のIgG量は血液中のIgG量に大きく依存します。そう言った背景から、分娩前の母牛にワクチンを投与して血中IgG濃度を高めることが、結果的に初乳中のIgG濃度を高めることにつながります。以前にも一部記載しましたが、牛の血液から初乳へのIgGの移行は分娩の約5週間前から始まり、分娩前の最後の2週間で最大になる(Brandonら、1971;Barrington and Parish、2001)ので、ワクチン接種は分娩の2週間前までに完了していることが望ましいとされています。
また、初産は経産牛と比較して血中IgG濃度が低いために、結果的に初乳中のIgG1濃度は低くなり、IgG1総量も少なくなります(Devery-Pociusら、1983)。
この様に「初産の初乳におけるIgG量の不足」を解消するための方法として、これまで述べて来たような「初乳製剤の追加給与(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=54)」 や「分娩前母牛へのワクチン投与(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=58)」 は非常に有効な手段となります。
● リッキングの有無
リッキング(licking:舐めること)とは、牛の業界においては一般的に「産後の母牛が子牛の体を舐めること」を意味します。初乳吸収の点から見た場合、リッキングには大きく以下の2つのメリットがあります。
1)マッサージ効果によって腸の蠕動が促進する
2)羊水で濡れた体が乾くことで寒冷ストレスが解消される
両者ともに具体的な内容は以前にも紹介していますので、詳細は以下をご覧ください(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=46)。
リッキングは母牛の本能的な行動であるとも言われていますが、中には「育児放棄」して全くリッキングしない母牛がいることは生産者の皆様もよく知る事実です(特に初産で多い)。その様な場合や、あるいは真冬の北海道の屋外など寒冷対策が不十分な環境で子牛の世話を母牛に任せることは「凍死」のリスクを上昇させるため、人によるサポートが必要です。具体的には、何よりもまず暖かい環境(理想:20〜25℃)において乾いたタオルなどで羊水を拭き取ると同時にマッサージ効果により血流を促したり、ジェットヒーターを使って子牛を温めたりすることが有効です。子牛の乾燥・保温に関して最近では「カーフウォーマー」などの専用機器も数多く発売されており、初乳吸収の観点からいずれも非常に有効です。