獣医/分娩の管理(26) ―次の妊娠・分娩へ向けて(1)
コラム
––– 繁殖障害につながる分娩トラブル –––
これまでの分娩管理のお話は、主に胎子や子牛についての内容でした。分娩前や分娩時、さらには分娩直後の飼養管理や対処によって、子牛が病気になるリスクは変化します。病気の有無はそのまま発育へも大きな影響を及ぼすため、分娩前後の母牛管理は子牛の健康にとって非常に重要なポイントとなります。
一方、分娩というイベントは母牛にとって、次の妊娠さらには分娩へ向けての新たなスタートになります。分娩前後=周産期のトラブルが発生すると、それによって次の妊娠が難しくなる、つまり空胎日数の延長につながったり、最悪の場合は次の妊娠が望めない様な状態になったりして、繁殖牛として飼っていくことができなくなってしまいます。
その様な状態になるのを防ぐために、今回からは母牛側に目を向けてみたいと思います。繁殖障害につながる分娩前後の要因を可能な限り取り除くことで、分娩後もスムーズに次の妊娠へ向けて繁殖を開始することができるかと思います。
分娩前後の飼養管理における重要なポイントとして、今回からは数回にわたって以下の内容に沿って話を展開していきたいと思います。
● 分娩前の飼養管理:
・栄養の充足と分娩の関係
・環境の改善による難産・死産の低減
●分娩時の飼養管理:
・環境の改善
・助産の手技
・難産の回避
●分娩後の飼養管理:
・胎盤停滞の回避
・栄養の充足
まず初回は、分娩前の飼養管理の中でも特に重要な『栄養』についてご紹介します。
––– 分娩前の母牛の栄養管理 –––
分娩2ヶ月前の胎子発育や分娩後における子牛の疾病予防に対して、母牛の栄養不足は悪影響が大きいことを過去のコラムでもご紹介しました(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=27)。
では、この栄養不足は母牛にとっては問題ないのでしょうか?
答えがもちろん「ノー」であることは、皆さんご想像の通りです。
次回の繁殖に向かうにあたって、分娩前母牛の栄養不足によって引き起こされる具体的なデメリットとしては、以下のような項目が挙げられます。
・分娩遅延や難産の増加
・胎盤停滞リスクの上昇
・子宮内膜炎の増加
・初回排卵の遅延
分娩後の受胎成績を向上させるには、栄養の充足によって上記の被害を回避する必要があります。充足させるべき栄養素はもちろん「全て」と言いたいのですが、ここではその中でも特に重要なキーワードとなる栄養素として、以下に4つ挙げたいと思います。
(1) エネルギー:特に糖
(2) タンパク質
(3) カルシウム
(4) ビタミンE(とセレン)
次回以降、それぞれ具体的に紹介していきたいと思います。