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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(28) ―次の妊娠・分娩へ向けて(3)

【栄養不足による悪影響(1) 分娩遅延や難産の増加】
 分娩前の母牛において特にエネルギーと蛋白質が不足すると胎子が十分成長せず分娩が遅延して、さらに難産になるリスクが高まります。黒毛和牛において、分娩予定日2週間前と分娩日における胸囲の差と在胎日数の関係を調べた報告では、在胎日数280-285日(平均282.3日)で分娩した群では胸囲変動が+0.36 ± 3.79cmであったのに対し、在胎日数286-294日(平均291.0日)と分娩遅延した群では同 −2.27 ± 4.00cmとなり、分娩遅延した牛は分娩前に痩せてしまっていることが分かります(1)。また、ホルスタインにおいて乾乳期間中のボディコンディションスコアの計測により「スコアが低下した=痩せた」牛では難産のリスクが上昇することが分かっています(2)。
 分娩前に太ってしまうことが難産に繋がることは皆さんご承知だと思いますが、逆にこの様に「分娩前に痩せてしまった牛では分娩が遅れて難産が増加する」という報告は上記以外にもあり(3)、また弊社の顧客農場さんでも経験しています。なお、在胎日数と子牛の出生体重の相関は報告によって様々あり一概に言えないのですが(1、3、4)、頭囲の大きさは遅延するほど大きくなるとも言われており(1)、頭囲に代表される「骨」のみ成長が続くことが難産の一つの要因として考えられます。

獣医/分娩の管理(28) ―次の妊娠・分娩へ向けて(3)

【栄養不足による悪影響(2) 胎盤停滞リスクの上昇】
 胎盤停滞は肉牛よりも乳牛において多く発生しますが、その発生要因は多岐に渡り非常に複雑であり、ある特定の原因のみを挙げることは困難です。ただし、胎盤停滞と免疫細胞が密接に関係していることは古くから分かっており、特に好中球が重要な役割を果たすと考えられています(5、6)。分娩後の胎盤は母牛にとっては自分の体ではない「異物」なので、好中球を中心とした免疫細胞が胎盤を子宮から剥がして排除しようとします。その好中球の機能に関わる栄養素として、前回記載した中では以下の3つが含まれます。

1:ブドウ糖
2:カルシウム
3:ビタミンE

 1のブドウ糖は好中球のエネルギー源であり、糖不足は好中球の生存・増殖・貪食に大きな悪影響を与えます(7)。その結果、エネルギー不足の牛では胎盤停滞が増加します(8)。

 2のカルシウムは、不足によって子宮収縮に悪影響を及ぼすことで胎盤の排出が遅れることはよく知られていますが、そもそも胎盤が子宮から剥がれないことには排出されません。胎盤を子宮から剥がす好中球の機能に対して、カルシウムは直接影響を与えていると考えられており(9、10)、カルシウムの不足によって胎盤停滞が増加します(8)。

 3のビタミンEは、その低下によって好中球の貪食機能が低下することが分かっています(11)。飼料からのビタミンE摂取量が不足している群では胎盤停滞が増加し、飼料添加や筋肉内投与によって血清αトコフェロールの濃度が上昇するに連れて胎盤停滞の発生が低下します(12)。

獣医/分娩の管理(28) ―次の妊娠・分娩へ向けて(3)

獣医/分娩の管理(28) ―次の妊娠・分娩へ向けて(3)

(続きます)

––– 参考文献 –––

(1) 馬場久美子, 2019; 黒毛和種母牛の分娩前栄養状態と分娩遅延の関係. 産業動物臨床医学雑誌
(2) Gearhart et al., 1990; Relationship of Changes in Condition Score to Cow Health in Holsteins. J Dairy Sci.
(3) 佐野公洋ら, 2013; 黒毛和種繁殖雌牛の分娩遅延の要因と分娩誘起が子牛に及ぼす影響. 家畜感染症学会誌
(4) 佐藤隆ら, 2015; 西條勝宜:種雄牛の違いによる黒毛和種産子の在胎期間と生時体重. 長野県畜産試験場研究報告
(5) Gunnink et al., 1984; Post-partum leucocytic activity and its relationship to caesarian section and retained placenta. Vet Q
(6) Kimura et al., 2002; Decreased Neutrophil Function as a Cause
of Retained Placenta in Dairy Cattle. J Dairy Sci.
(7) Ingvartsen et al., 2013; Nutrition, immune function and health of dairy cattle. Animal.
(8) Nakao et al., 2000; Effect of Nutrition during Pregnancy on Calf Birth Weights and Viability and Fetal Membrane Expulsion in Dairy Cattle. Proceedings 21 World Buiatrics Congress
(9) Zhang et al., 2019; Effects of ORAI calcium release-activated calcium modulator 1 (ORAI1) on neutrophil activity in dairy cows with subclinical hypocalcemia1. J Anim Sci.
(10) Zhang et al., 2022; Role of ORAI calcium release-activated calcium modulator 1 (ORAI1) on neutrophil extracellular trap formation in dairy cows with subclinical hypocalcemia. J Dairy Sci.
(11) 稲田司ら, 2003; 乳用牛の分娩前後における好中球貧食能低下防止技術の検討. 九州農業研究
(12) Pontes et al., 2015; Effect of injectable vitamin E on incidence of retained fetal membranes and reproductive performance of dairy cows. J Dairy Sci.