獣医/分娩の管理(33) ―次の妊娠・分娩へ向けて(8)
コラム
––– 分娩時の飼養管理改善による繁殖障害予防 –––
次期の繁殖を効率よく実施していくにあたり、前回までは分娩前の飼養管理を改善することで難産を回避できたり分娩後の子宮内膜炎など繁殖関連の疾病を防ぐことが可能であることをご紹介しました。
分娩前の話は一区切りつけまして、今回からは分娩時のお話をしていきたいと思います。
● 分娩前の飼養管理:
・栄養の充足と分娩の関係
・環境の改善による難産・死産の低減
● 分娩時の飼養管理: ← いまココ
・環境の改善
・助産の手技
・難産の回避
● 分娩後の飼養管理:
・胎盤停滞の回避
・栄養の充足
分娩というのは、分娩前までは閉じていた子宮頸管が開くことでそれまで外界と遮断されていた子宮頸管〜子宮が外界にさらされる機会でもあります。つまり、環境中の病原微生物が子宮内へ侵入する絶好のチャンスでもあり、次期の繁殖にとっては大きなリスクにもなります。実はこのタイミングにおける細菌感染はほぼ避けられないとも考えられていますが(1)、その感染する菌量を減少させたり、感染成立させない様に母牛の健康状態を高く維持することは可能です。それらを実践することが最終的に次の妊娠・分娩に向けた最高のスタートに繋がるので、分娩には衛生意識を1ランク2ランク上げて臨みましょう。
––– 牛床環境の改善による分娩時の感染予防 –––
自然分娩であれ介助分娩であれ、分娩時の牛床環境の改善は子宮内感染を防ぐ上でまず取り組むべき重要なポイントの一つです。牛床環境が悪ければ環境中の細菌数が多く牛体も汚れやすいため、大腸菌群をはじめとした病原性細菌が子宮内へと侵入しやすくなることは容易に想像できるかと思います。牛床環境が悪いことは生まれてくる子牛にとっても大きなリスクであり、初乳を飲む前に細菌が経口感染すると初乳の吸収率は大きく低下してしまいます
(詳しくは過去コラムを参照:http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=43)。
上記の初乳についてのコラムにも記載している通り、分娩環境、特に牛床環境の改善は極めて重要であり、母牛の子宮内感染を予防する上でもポイントは同じです。改めてまとめると、分娩環境の改善や用いる敷材について押さえるべきポイントは以下の3点になります。
● 水分少なく乾燥していること
湿っていると 細菌が増えやすい & 牛体に付着して汚染しやすい
● 敷材の粒度が大きいこと
細かいノコクズやホコリは子宮内に入り込みやすい
● カビや細菌などに汚染されていないこと
綺麗に見えるノコクズでも大腸菌群 (クレブシェラなど) が大量に付着しているケースあり
以上を踏まえると、分娩時の牛床に用いる敷材としては「細断していない麦稈や稲藁などの長い乾草」が理想だと思われます。ただし、溝切りをしていないコンクリートの上に直接敷き藁のみを敷いても滑ってしまって股裂など事故のリスクも高くなってしまうため、こういうケースでは水分量30-50%ほどの戻し堆肥などで10-15cmほど下地を固め、その上に敷き藁を敷き詰める様にしてみてください。
さらに言うと、分娩部屋では「有機物を利用した敷料を使わない」というのも選択肢の一つです。ラバーマットやウレタンマットを敷いたり、さらには、本当に分娩させるためだけの部屋に移動できるのであれば、そこは何も敷かないというのも有効です。しっかり溝切りされたコンクリートであれば滑走のリスクもありませんし、分娩開始〜終了までの1〜2時間程度の短時間であれば牛への悪影響はほぼありません。冬季の北海道では牛床が凍ることによる蹄や関節への傷害も問題になりますが、有機物敷料を使わなければそのリスクも無くなりますので、もし悩まれている農場では一度実践されてみてはいかがでしょうか。
― 参考文献―
(1) Sheldon, 2008. Uterine diseases in cattle after parturition. The Veterinary Journal. 176(1):115-121.