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タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/分娩の管理(6) ― 良い牛に育てるために(2)

 良い牛に育てるために、分娩後の子牛において最も重要なポイントは、何と言っても「初乳」です。高品質の初乳をしっかり飲ませる事が全ての始まりであり、そこが上手くいくかどうかで、その後の哺育〜育成の手のかかり方も大きく変わります。ウシの一生を決めると言っても過言ではありません。

 子牛にとって初乳が重要である理由はいくつか挙げられますが、大きくは以下の2点になります。

(1)栄養の付与
(2)免疫グロブリンの付与


 (1)の栄養は見過ごされがちですが、初乳は常乳(じょうにゅう:通常の乳汁)に比べて乳脂肪、乳タンパク質、ビタミンA・E、カルシウムなどのミネラルが豊富に含まれており、体内の栄養ストックが少ない出生直後の子牛にとっては重要な栄養源であり、少量でも効率よく栄養が摂取できます。
 
 そして、栄養以上に重要なのが、皆さんご存知の「(2)免疫グロブリン」になります。初乳をしっかりと飲ませる目的のメインは、この「免疫グロブリンの付与」と言えます。免疫グロブリンは色々呼び方があり「抗体」や「IgG(*1)」と言われることも多く、どれかは聞いた事があるかと思います。
(*1:正確には、IgGは免疫グロブリンの中の一種類ですが、ウシや多くの哺乳類ではIgGが免疫グロブリンの大部分を占めるため「免疫グロブリン ≒ IgG」とされる事があります。免疫グロブリンは英語でImmunoglobulin = Igと表記されます)

 ではなぜ、それほどまでに初乳、中でも免疫グロブリンが重要なのでしょうか?ヒトとの違いは何でしょうか?
 
 ウシの業界で初乳の重要性が繰り返し大きく叫ばれる理由は「生まれた直後の子牛では血中の免疫グロブリン濃度がゼロだから(=免疫グロブリンが無いから)」であり、これはつまりあらゆる感染症に対して無防備に近い状態(*2)だと言うことを示しています。
(*2:誤解を生まないためやや専門的に正確な表現をすると、子牛は液性免疫である免疫グロブリンは付与されていませんが、細胞性免疫は存在します。軽度の感染は細胞性免疫で対応可能であり、一定範囲の感染防御能は有しています)
 この理由として「ヒトや他の哺乳動物とウシでは胎盤の構造が異なる」ということが挙げられます。免疫グロブリンというのはとても大きな塊(タンパク質)なのですが、ヒトでは母体の免疫ブロブリンが胎盤を通過して胎児の血液中にまで達する一方、ウシではこれができません。母牛の免疫グロブリンは胎盤を通過できないため、胎子の血中グロブリン濃度はゼロであり、子牛は免疫グロブリンを持たないまま出生します。

 そのため、生後直後から感染症との戦いが始まる子牛にとっては、一刻も早く免疫グロブリンを摂取する必要があります。つまり冒頭でも記載した通り、「高品質の初乳をしっかり飲ませること」が重要になってきます。

獣医コラム/分娩の管理(6) ― 良い牛に育てるために(2)

 そこでいくつか疑問が湧いてくるのですが、この「高品質の初乳」とは、具体的にどういったものでしょう?「しっかり飲ませる」とは、具体的にどれくらいの量でしょうか?
 初乳はただ飲ませればいいと言うことではなく、せっかく飲ませても効果が薄まってしまう要因もあり、初乳給与には重要なポイントがいくつもあります。
 以下にポイントだけまず列挙します(カッコ内が推奨ポイント)。

(1) 初乳の要因
  ・IgG濃度(BRIX値として20%以上)
  ・汚染(無し)
  ・給与量とタイミング(生後6時間以内に体重の5%以上、12時間以内に10%以上、24時間以内に15%以上)
(2) 子牛側の要因
  ・病原微生物の侵入(口鼻周りを汚染させない)
  ・腸の蠕動[ぜんどう](難産による低酸素を防ぐ、体表マッサージなどによる血流促進、胎便の排出)
(3) 母牛側の要因
  ・初乳量と初乳中IgG量(分娩前の乾物摂取量確保/増し飼い、漏乳させない、母牛へのワクチン投与)
  ・血中IgG量(初産は少ない)
  ・リッキング有無(体をしっかり舐めさせる)
(4) 環境の要因
  ・寒冷/暑熱(15-25℃を維持)


次回以降、これらを具体的に説明していきますね。