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タイセイ飼料株式会社

獣医コラム/分娩の管理(7) ― 良い牛に育てるために(3)

 それでは初乳における重要なポイントをお話ししていきます。まずは、初乳そのもののポイントです。以下の3つが重要です。

● 初乳のポイント
(1) IgG濃度(Brix値として20%以上)
(2) 汚染(無し)
(3) 給与量とタイミング(生後6時間以内に体重の5%以上、12時間以内に10%以上、24時間以内に15%以上)


(1) IgG濃度
 IgG濃度は初乳の品質を決めるための最も良い指標であり、昔から広く利用されています。IgG濃度の高い初乳と低い初乳を同じ量で比べた時、高い濃度の初乳の方がたくさんのIgGが入っているため、当然子牛に吸収されるIgG量も多くなります。そして、最終的に子牛に吸収され、子牛を守ってくれるIgG量が多い(=子牛の血中IgG濃度が高い)牛の方が、病気になりにくく死亡率も低い事が古くから分かっています(Davisら、1988)。

 このIgG濃度ですが、初乳の良し悪しの基準としては「50mg/dl」というのが一つ基準になっています。50mg/dlよりも濃度が高いと「高品質の良い初乳」、低いと「低品質の良くない初乳」と言われています(子牛の科学、2009)。

 しかし、このIgG濃度を知るためには、専門に検査をしてくれる機関に外注しなければいけません。IgGそのものを正確に計測するには「お金/手間/時間」がかかります。

 そこで、牧場の現場で手軽に初乳の品質を調べる方法が模索されてきました。現在のところ、最も手軽かつ信頼度の高い手法として「糖度計」を用いる方法が知られています。この糖度計で示される数値は純粋な糖度ではなく「Brix値」と呼ばれるもので、「溶液中の固形分(=可溶性固形分)の割合(%)」を示しています。このBrix値と初乳中のIgG濃度には高い相関があることが分かっており(斉藤ら、2007)、Brix値20%以上が良質の初乳の指標とされています(石井ら、2007)。

獣医コラム/分娩の管理(7) ― 良い牛に育てるために(3)

 デジタル糖度計を使えば、本当に手軽にBrix値を測ることができます。測定に必要なのは「初乳1滴」だけであり、その場ですぐに結果が見えて初乳の品質が分かります。数値の高い初乳であれば安心して与えられますし、低かったとしたら「いつもよりも多めに与えようかな」という判断の材料にもなります。

 後述する、初乳用の「低温殺菌装置」が一般的に普及してきたのと同じように、これからの時代、デジタル糖度計は酪農家さんや繁殖農家さんでは必須アイテムとして持っておいて良いものだと思います。

(2) 汚染
 二つ目のポイントは「汚染の有無」です。初乳の汚染というのは、簡単に言うと「初乳中に細菌がいるかどうか」です。注意点として、厳密に言えばどんな初乳でも細菌は多少混ざっていて、この量が多いことが問題であり、場合によっては「初乳で栄養と免疫グロブリンを与えているつもりが、細菌を感染させている」ということにもなりかねません。初乳中の細菌数が多いと、その初乳を飲んだ子牛は細菌に感染し、早ければ数時間後から体調を崩し始めます。

 ここで、「でも初乳でIgG吸収できているし、多少は大丈夫でしょ?」と言う方もいらっしゃると思いますが、そこに大きな落とし穴があります。実は、初乳中に細菌が存在すると、IgGの吸収率が大きく低下することが分かっています(Jamesら、1981)。これを解消する方法が「初乳の低温殺菌(60℃30分)」です。この温度と時間では、IgGも多少は破壊されてしまうのですが、殺菌によるメリットの方が大きく(髙橋ら、2008)、結果的に殺菌処理をした初乳の方がIgGの吸収率が高くなります(平林ら、2018)。低温殺菌をした初乳を飲んだ子牛と殺菌していない初乳を飲んだ子牛を比較したある研究では、低温殺菌の有無によって給与後4時間から既に血中IgG濃度にも吸収率にも有意な差が認められており、最終的に血中IgG濃度が最大になった給与後24-48時間後では血中IgG濃度に60%以上の違いがあったことが報告されています(平林ら、2018)。

獣医コラム/分娩の管理(7) ― 良い牛に育てるために(3)

獣医コラム/分娩の管理(7) ― 良い牛に育てるために(3)

 和牛の繁殖農家さんや一貫肥育農家さんでは「搾乳→殺菌処理」は難しいかもしれませんが、酪農家さんの場合、一見きれいに見える初乳でも必ず低温殺菌することが推奨されます。