酪農コラム/「炭水化物3~飼料の加工とデンプンの消化(1)」
コラム
はじめに
飼料の加工は原料の栄養的価値を高めるために物理的(加熱や加湿)または化学的処理を行うものです。加工により特定の原料の嗜好性や消化性や摂取量を上げることで、その原料の価値を上昇させます。物理的な加工方法としては粉砕、ペレット加工、ロール加工、フレーク加工、ポップ加工、ロースト加工があります。化学的な加工方法としてはデンプンを包んでいるたんぱく質を壊して細胞の構造を変化させたり、脂肪酸やアミノ酸や尿素などの原料をコーティングしてルーメンで微生物の攻撃を受けないようにしたりする、などの方法があります。物理的加工と化学的加工は同時に行われる場合もあり(物理化学的加工)、スチームフレーク加工はその一例です。
穀類の構造
穀類の子実(種子)の構造はその生物学的な機能を反映しています(発芽と初期成長まで胚を守り貯蔵する)。胚だけではなく、デンプンのほとんどが含まれる胚乳の部分も含めたカバーとして、果皮が全体を包んでいます。
種子中のデンプン割合は穀類の種類と品種によって異なります。胚乳は一番外側の層(アリューロン層)、周辺部(アリューロン下層)、さらにその内側に硬い胚乳があり、一番内側に糊粉層があります。周辺部と硬い胚乳の部分にあるデンプンの粒はたんぱく質に囲まれた構造がさらに胚乳細胞の厚い膜で包まれています。この膜はたんぱく質と非構造性炭水化物でできていて、内部が水や加水分解酵素の影響をあまり受けないようになっています。
飼料の加工 (Feed Processing)
飼料を加工(粉砕やフレーク)するには熱、水分、機械的な作用を用いて胚乳の構造を壊し、デンプンの粒を露出させることでデンプンが糊化しやすくなるようにします。糊化はデンプンの粒が水を吸って膨らみ、最終的に結晶様配列からアミロースとアミロペクチンを放出することで起こります。穀類の種類による構造的な差は試験管内や動物でのデンプンの分解度に影響し、動物の成績にも影響します。
粉砕加工
皮がついた穀類の子実そのままでは反芻動物はほとんど消化できません。このため、デンプンの消化率を上げるには熱、水分、時間、機械的作用を組み合わせて加工します。
加工しなかったトウモロコシの粒はルーメンで分解されず、小腸でも分解されないため糞に出てきます。咀嚼や反芻で破壊されなかった粒は消化管内でも分解されません。粉砕加工では硬い皮を壊すことから、ルーメン内の微生物がアタックするための表面積が増え、酵素による分解が進みます。粉砕した飼料は他の原料と容易に混合できます。粉砕が細かすぎると粉っぽくなり、デンプンの発酵が早くなることからアシドーシスの原因になります。羊と山羊は独特な消化機構を持ち、加工していない穀類でも利用できるため、牛ほど加工方法は重要ではありません。
細かく粉砕された穀類や飼料を給与された牛では反芻時間が少なくなります。反芻時間は唾液の分泌に直接影響するため、極端に細かい穀類を給与すると唾液の量が減りルーメンでのバッファー(緩衝)作用が少なくなります。
(つづきます)