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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(13) - 良い牛に育てるために(9)

(2)初乳中IgG濃度 ––– 品種間における違い
 子牛の疾病予防を目的とした初乳給与における「母牛側の要因」の二つ目は、初乳中のIgG濃度です。これは、このシリーズの最初(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=38)にすでに述べたことですが、ここではまずは品種間での違いに注目してご紹介したいと思います。

 初乳量が品種間で異なることは前回述べましたが、では最も重要な「IgG濃度」には違いがあるのでしょうか。簡単にまとめると、以下のとおりです。

 ● ホルスタイン:(初産)56.2 ± 29.4 〜 (経産)73.1 ± 27.9 mg/ml
 ● 黒毛和牛:(経産牛)160.1 ± 52.2 mg/ml
 (Osaka and Kohara、2001)

獣医/分娩の管理(13) - 良い牛に育てるために(9)

 この様に、ホルスタインと黒毛和牛ではIgG濃度が大きく異なり、黒毛和牛の方がIgG濃度は「2-3倍濃い」ことが分かります。また、初産牛と経産牛を比べると、経産牛においてIgG濃度が濃いことも分かります。この研究では黒毛和牛初産牛の初乳IgG濃度は明示されていませんが、一般的に初産牛では経産牛よりもIgG濃度が低いことが分かっています(ホルスタインのデータからも明確)。

 ちなみに、この研究で示されている黒毛和牛経産牛の初乳中IgG濃度「160mg/ml」は、BRIX値で換算(*)すると「40%」近い値となります。冒頭のリンクにあるコラムで紹介している通り、20%以上で良質、25%以上で高品質とされている初乳において、この「BRIX値40%」は「超高品質」「超々高品質」であると言えます。
(* IgG(mg/dl) = -61.896 + 5.666 x BRIX(%): Quigleyら、2012)

––– 和牛では親からの初乳で足りるのか? –––

 ここで前回の話の最後に戻りますが、「和牛は初乳量が少ないけど大丈夫なのか?」という疑問が出てきます。前回紹介した和牛の初乳量(1.3L)と、上の図で示した初乳中IgG濃度から計算すると、初乳中に含まれるIgGの総量約200gであり、これは良質初乳とされるBRIX値20%の初乳に換算(*同上)すると、約4Lに相当します。これだけのIgGを摂取していれば、ホルスタインより病気に弱いと言われる和牛だとしても、移行免疫不全(FPT:Failure of Passive Transfer)に陥る心配は少ないです。

 ただし注意点として、これはあくまで平均的なデータであり、これをそのまま全ての牛に適用することは危険も孕んでいます。個体差もありますが、元々乳量が少ない母牛はいますし、分娩前の増飼や母牛へのワクチネーションが不十分なケースでは初乳中のIgG量が少なくなってしまいます。一頭ごとの個体価値が非常に高い黒毛和牛では、全ての子牛を“確実に” “健康に”育てていく必要があるので、安全を考えると「生まれてきた全ての子牛には母牛の初乳に加えて、初乳製剤を1袋(IgG量として60-70g)、またはホルスタインの凍結初乳を1〜1.5L与える」のが良いと考えられています(小原ら、2005)。

 ただ、冬の北海道では生まれた子牛を母牛と同じ環境に置いておくことは困難であることが多く、特に黒毛和牛において、母牛につけて好きなだけ初乳を飲ませることは現実的ではありません。その場合、多くの農家さんは母牛から離して初乳製剤を与えるかと思いますが、その最適な量とはどれほどなのでしょうか?1袋では足りなさそうだけど、2袋ならOKなの?3袋は必要無いの?

いえいえ、実は3袋でも全然足りないことがあります。そもそも、初乳製剤1袋にどれくらいの量(グラム)のIgGが含まれているかを考慮して与えなければいけないのですが、その必要量はどれくらいなのでしょうか?どの様な数値根拠から初乳戦略を考えれば良いのでしょうか?

 次回はこの辺りをご紹介します。日本国内で得られた黒毛和牛のデータとホルスタインのデータを比較しながら、かなり実践的な数値(でも現場で簡単に分かる)を明示してみたいと思います。