酪農コラム/蛋白質3~飼料の加工と蛋白質の消化(1)
コラム
はじめに
飼料の蛋白質から生産物の蛋白質へ変換する効率はさまざまである。その中でも牛乳は最も効率が良いと言われています(牛乳19~45%・卵20~36%・鶏肉12~16%・羊肉6~10%)。乳量30㎏の牛は牛乳中に960gの蛋白質を生産しています(30kg × 3.2%(乳蛋白) = 960)。1992年にカナダの研究では、飼料から乳牛中のNの流れを見たところ、尿 50%、糞 29%、牛乳 19%、体組織 2%となっていることを報告しました。このような尿や糞に流れるN量は飼料の加工法によって減らすことが出来ます。この効率は、非繊維性炭水化物(NFC)の量によって変わります(低いNFCの場合は、効率が下がる可能性があります)。
蛋白質は要求量を満たすまでは給与による効果が得られますが、過剰になるとその効果は減少し、生産性に対してマイナスの影響を与えます。高い生産性を求めない牛に対しては、ルーメン内で作られる微生物態蛋白質で十分です。しかし、高い生産性を求める牛に対してはルーメン発酵だけでは足りなくなります。そこで飼料の加工法やルーメン発酵をコントロールする技術が大事になってきます。
動物中の蛋白質は体全体に広く分布していますが、植物中の蛋白質は主に葉と種に多く存在します。乳牛の飼料中の蛋白質は14~18%ほどの範囲です。飼料原料の中で蛋白質のコストは高いが、ルーメンの発酵品質などが分かれば、飼料の蛋白質を効率的に使用でき、コストを下げることも可能です。過剰な蛋白質はコストが高くなり、体にも悪い影響を与え(繁殖成績、乳房炎など)、環境にも悪い影響を与えます。逆に蛋白質が不足すると、乾物摂取量やルーメン内の繊維とNFCの消化が減少し、乳量が低下します。
蛋白質が20%以上ある原料は蛋白質原料と言われています。蛋白質原料の加工はルーメン内の微生物の分解から守るための技術です。その方法は、加熱、タンニンとの結合、脂質のコーティングやルーメン内微生物の代謝を調節することなどがあります。
加熱処理
加熱処理はルーメン内微生物の分解から蛋白質を守る最も一般的な加工法です。大豆の加熱方法は、タンク内において130~150℃で約35~45分ほど加熱し、ローラーで好みの厚さにプレスしてフレークにします。加熱処理が生の大豆に含まれる非栄養物質(トリプシンインヒビター、リパーゼ、ウレアーゼなど)を破壊することによって嗜好性や消化率が改善します。
加熱処理はリジンと糖分が結合してメイラード反応を起こします。これは肉を焼いたときに茶色になる反応です。肉の焼き加減は色で判断できますが、大豆も同様です(焼きすぎたものは糞に出る可能性があります)。
蛋白質をルーメンバイパスさせる方法としては加熱処理が最初でした。1950年代にイギリスの研究員が消化性の高いカゼインを加熱して羊に給与したら、窒素の利用が高まることを発見しました。また、他の研究員が同じ結果を離乳直後の子牛にも見られることを報告しました。1980年代のアメリカの研究では、生大豆や大豆粕と比較して加熱大豆は乳量や乳蛋白を改善したことを報告しました。しかし、加熱方法が不適切(加熱が不十分もしくは焼きすぎ)であると加熱大豆の効果が見られない可能性があります(同じことが大豆粕にも言えます)。
タンニン
タンニンは木の皮や葉(お茶)などに含まれ、渋い味のする成分であり、蛋白質(コラーゲン)と結合させて皮をなめす事にも利用されています。皮をなめすことをタンニング(tanning)といい、なめすことにより皮が腐らないようになります。濃厚飼料や粗飼料にタンニンは含まれていますが、鳥や豚には飼料中のタンニン含量に制限があります。反芻動物は制限の幅が広く、鹿>山羊>羊>牛の順番で耐性があると言われていますが、多量に摂取し過ぎると嗜好性や生産性が低下します。
タンニンは蛋白質と結合し、ルーメン内での消化性を低下させます。この性質はpHによって変わります。通常のルーメンのpHは高いため分解されませんが、第四胃ではpHが低いためタンニンから蛋白質を分解させ、小腸で蛋白質が吸収されます。タンニンは直接飼料に添加でき、摂取や反芻している間に蛋白質と結合しますが、ルーメン内でもアンモニアと結合するため、微生物の分解から守りバイパス率を高めます。マメ科はタンニン含量が高いが、アルファルファやクローバーは低いと言われています。飼料原料の中では、マイロ、フルーツ粕(ブドウ・柿など)、どんぐりや栗皮に多く含まれています。
現在の研究ではタンニンをうまく利用する方法として、ルーメンのアンモニアやメタンガスを低下させて、乳量、乳蛋白質、MUNや糞尿のにおいを改善する報告がされています。ヨーロッパでは今、タンニンが飼料添加物として出回っています。
(つづきます)