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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(24) ― 良い牛に育てるために(20)

––– 臍帯炎の予防(3):臍帯処置・消毒 (つづき)–––
 細菌が増殖するには水分が必要です。逆に言うと、水分が無ければ細菌はほぼ増えないので細菌感染による炎症は問題になりづらくなります。つまり、「臍帯炎がなぜ発生するのか?」を細分化して考えていくと、以下の2点に集約されるかと思います。

1. 臍に細菌感染が成立している
2. 感染成立しているその場所に水分が残っている


 この2点のどちらか一方でも防ぐことができれば、臍帯炎は予防できます。では具体的にどうすれば良いかという疑問への答えが、前回ご紹介した「分娩直後に1回のみ臍帯外側をアルコール含有消毒液で入念に消毒し、その後は乾燥させる」になります。消毒の方法はディッピング容器(臍の緒のドブ漬け)を用いたりスプレーによる入念な噴霧で実施します。

 消毒剤には多くの種類がありますが、上記に当てはまるものとしては「ヨードチンキ」「10%ポピドンヨードアルコール(イソジンアルコール)」「0.5〜2%クロルヘキシジンアルコール」などがあります。現場で最もよく利用されているものは「ヨードチンキ」ではないでしょうか。これらの共通点は、有効成分による細菌の殺菌効果はもちろんですが、重要なポイントは「アルコール」が含まれている点です。アルコールは通常の水と比べて揮発しやすい(=気体になりやすい)ため、付着した部分が素早く乾燥します。乾燥が進むと細菌は生きていられなくなるので、臍帯炎の予防にとって「乾燥状態を保つ」ことは分娩環境と同様に非常に重要になります。

【消毒時の注意点】
 ここで、臍の処置をするときの注意点を何点か記載しておきたいと思います。消毒薬は強力に殺菌効果を発揮する反面、使い方を誤ると子牛にとって害をもたらすこともあります。

1:清潔な環境で衛生的な処置
 こちらは前回のコラムで「臍帯炎の予防(2)」にも記載した通りです。いくら消毒薬を利用するからと言っても、分娩環境の衛生度が低ければ消毒薬の効果は十分に発揮されません。また、処置をする際も敷料などによって汚れた手指で臍を触ることは厳禁です!必ず綺麗な手指で、できれば使い捨ての手袋をつけて衛生的に処置をすることをお勧めします。

2:臍=羊膜鞘(*)の中には消毒薬を絶対に入れない!
 生産者さんの中には「臍=羊膜鞘の中に抗生物質や乳房炎軟膏を入れる」という処置によって臍帯炎予防をしている方もいるかと思います。それと同様の考え方で「消毒薬を臍の中に入れれば臍帯炎を予防できる!」と思われて実施してしまうと、重大な事故につながります。消毒薬はいずれも強い殺菌作用がある反面、生体にとっても極めて強い刺激があり、もし臍の中に入れてしまうと「化学的腹膜炎(=細菌感染ではない腹膜炎で、火傷のような炎症が起こる)」になってしまいます。消毒薬をかけるのは羊膜鞘の外側のみとすることが重要で、その内部にある尿膜管や臍動脈・臍静脈(*)には消毒薬が触れないように気をつけてください。

(*羊膜鞘など臍帯の構造については過去のコラムをご覧ください。http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=70

獣医/分娩の管理(24) ― 良い牛に育てるために(20)

 なお、臍帯炎予防において抗生物質を常に使用することは薬剤耐性菌の観点から世界的に推奨されていません。また、乳頭保護に用いられるディッピング剤では「ヨウ素の濃度が薄い+乾燥が進まない(むしろ保湿成分が入っているものが多数)」ですので、臍帯炎予防を目的とした消毒には効果が不十分であると言われています。(1)

3:消毒薬による処置は基本的に1回で済ませる
 こちらの内容は前回コラムの後半に記載した「ここだけは外せない重要なポイント」にも一部記載しましたが、ヒト医療の分野では「生後24時間以降の臍の継続的な消毒は必要ない」と言われています。その理由は、(アルコールやアルコール含有消毒薬であっても)継続的な消毒薬の使用は臍の乾燥を妨げるためです。こちらは畜産分野でも同様であり、(分娩環境を清潔に整えその後の新生子の飼育環境も乾燥した衛生的な状態にした上ではありますが)消毒による殺菌は初回の1回を入念に実施することで完了させることがポイントです。

その後は生後3日目→7日目→10日目などの間隔で臍の状態をチェックしていければ完璧です。定期的なチェックによって万が一の臍帯炎にも早く気づいて早期の治療が実施できれば、その後の発育への影響もなく抑えられます。


––– 参考文献 –––
(1) Springer, 2020; Complete Navel Care – It's Not Just About Navel Dip. Penn State Extension.