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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(25) ― 良い牛に育てるために(まとめ)

––– 改めて環境改善の話–––
 これまで分娩管理の話の中で「良い牛に育てるために」というテーマで話をしてきました。このテーマは今回で一旦区切りを設けたいと思います。

 こちらのテーマにおいては長きにわたって、「生まれてきた子牛が病気にならずに健康に発育していくための重要なポイント」を話してきました。その中でいくつも具体的な戦略を数値データや科学的背景に基づいてご紹介してきましたが、最も重要なポイント「環境を改善する」ということに尽きます。具体的には「清潔で乾燥した暖かい場所を生後直後から子牛に提供する」ことです。過去のコラムでももちろんご紹介はしてきましたが、改めてその重要性やポイントを、以下でお話ししていきたいと思います。

––– 糞尿汚染はその後の全てを“無”にしてしまう–––
 子牛の疾病 (特に感染症) を予防して良好な生後発育を達成するために重要な分娩管理のポイントとしては、

● 良質初乳を早期に十分量摂取すること
● 臍帯炎を確実に予防すること

この2点が極めて重要であり、これらに失敗すると子牛はあらゆる感染症に罹患することになってしまいます。そうなると、その後の良好な発育は極めて難しくなります。この2点を達成するための大前提となるのが「環境」の要因になります。

 羊水で濡れた生後直後の子牛の体には、牛床にあるあらゆるものが容易に付着します。もしも生まれ落ちたその場所が母牛の糞尿に汚染されて濡れた不衛生な牛床環境である場合、その汚染された敷料から大量の病原微生物が子牛の口や臍を入り口として簡単に侵入します。特に口周りが汚染された場合、その後の初乳吸収は絶望的となります。どれだけ良質の初乳を分娩後早期に十分量与えたとしても、その初乳よりも前に細菌をはじめとした病原微生物が侵入していると初乳の吸収率は大きく低下します。その結果、子牛の血中IgG濃度は十分に上昇せず、感染症に対して極めてハイリスクな子牛となってしまいます。

 また臍帯についても同様であり、糞尿で汚染された敷料に曝露された新生子の臍からは、細菌が大量に容易に侵入してきます。この様な子牛では、その後の臍帯処置をどれほどしっかり実施したとしても、臍帯炎や臍関連疾患になるリスクが極めて高くなります

––– 初乳を飲むまでや臍処置前の衛生度を上げて評価する–––
 上記のリスクを回避するには、とにかく分娩環境やその後子牛を管理する環境の衛生度を上げる事が必要です。もしこれまで、「生後1-2日ですぐに下痢をする」「臍帯炎が多い」「初乳をしっかり飲ませているけども病気がち」など、子牛の疾病で悩まれている方がいらっしゃいましたら、一度、環境面を徹底的に見直してみると良いかもしれません。

 初乳や臍に関する情報は色々な所で具体的な手法が紹介されています。私の過去のコラムもその一つですが、その様な情報は「具体的で実践しやすいからこそ、そこにばかり注力してしまう」という事が起こり得ます。その一方で、より重要な「環境」に関してはおろそかにされる傾向にあります。環境の改善はハードルが高い場合も多く、なおかつ、数値で計測しづらいこともあり、「具体的な方法やその成果が分からない」というケースが少なくありません。環境の衛生度は多要因なため直接評価することはなかなか難しいのは事実ですが、その結果である「子牛の疾病発生状況 (発症日齢・発症個体数、など) 」や「子牛の生後24-48時間における血中TP濃度やBrix値 (*)」は簡単に計測できます。

 子牛の疾病で悩まれていて環境改善を実施した効果を計測したいという場合、上記のような数値をもとに効果を判定してみることからトライしてみてはいかがでしょうか。

(* 血中TP濃度やBrix値は血液中のIgG濃度と相関することが知られており(1)、これらを測定することで初乳の吸収度合いを間接的に評価できる。)

獣医/分娩の管理(25) ― 良い牛に育てるために(まとめ)

––– 参考文献 –––
(1) Deelen et al., 2014; Evaluation of a Brix refractometer to estimate serum immunoglobulin G concentration in neonatal dairy calves. J. Dairy Sci.