獣医/肢蹄病の原因と予防(1)- 肢(あし)の病気について
コラム
肢蹄病には肢(あし)の病気と、蹄(てい)の病気がある事は先月のコラムにてお伝えしました。その中でも牛舎構造が関与するため最も対策に難儀する『肢の病気』から解説していきたいと思います。
––– 飛節外腫(飛節周囲炎) –––
飛節外腫とは、その名の通り『飛節の外側が腫れる』事を意味します。飛節外腫の原因は以下と考えられています。
上記内容を見てもらうと、飛節外腫 ≒ 床ずれ and/or 闘争に起因する外傷 だと感じてもらえると思います。
解剖学的な視点で見てみると、飛節周囲はほとんど筋肉で覆われていません。そのため、外傷を受けると飛節関節(足根関節)の最も外側にある『果骨』と言われる骨と皮膚の間で内出血してしまうのです。
つまり、飛節外腫を予防する方法は、果骨 ⇄ 皮膚のこすれ/外傷を予防する事となります。
過去の報告を見ると、以下の様な方法で飛節外腫リスクを下げることが提唱されています。
・厚めの敷料を敷く(報告では7cm以上の深さが推奨)
・牛のサイズに合わせストール幅を拡張
・踏圧されても柔らかい敷料(麦稈や砂)の利用
・放牧地やパドックの利用(1日3時間以上、もしくは4週50時間以上)
・過密(≒ 闘争)の低減
上記方法のほとんどが『クッション性』を重要視しています。では、既に飛節外腫になってしまった牛はどうするのかというと、人為的に擦過傷を防ぎ、飛節にクッションを作る治療法があります。
上述した方法は、擦過傷を悪化させない事に重点を置いています。擦過傷が進行すると飛節外腫が悪化するだけでなく、最悪の場合、起立時の姿勢が悪くなり乳頭を踏みつけてしまう事もあるためです。テーピングする際には以下の点に注意すると長期間、牛の皮膚を被覆する事が可能です。
・強度・粘着力のあるハードタイプの伸縮テープを使用
・テーピング前に飛節周囲の汚れを落とす
・皮膚が乾燥した状態でテーピング
・横だけでなく『X(エックス)』を描くように包帯を巻く部分を作る
また、上述の様にテーピングした後にクッションを重層し、その上からさらに包帯で被覆する事も効果的です。下図の牛は両後肢に飛節外腫があり歩行難渋を示していた牛です。テーピングの後、クッションを入れてピンク色の伸縮包帯で被覆 → 2ヶ月ほど麦稈の上で飼養したところ、飛節外腫が軽減し無事に歩様改善する事ができました。
農場の牛床構造や敷料の制限/コストにより、最も対策が難しいのが飛節外腫だと思います。飼養環境によっては飛節外腫がほぼ見られない農場もありますが、もし散見される場合には上記対策で一つでも活用できる方法があれば幸いです。
(文責:牧野 康太郎)
― 参考資料―
(1) コンピュータX線撮影装置および携帯型超音波画像診断装置を活用した飛節周囲の正常画像の把握とその応用
(2) Body size in relation to cubicle dimensions affects lying behavior and joint lesions in dairy cows.
(3) Housing System, Milk Production, and Zero-Grazing Effects on Lameness and Leg Injury in Dairy Cows.
(4) Daily grazing time as a risk factor for alterations at the hock joint integument in dairy cows.
(5) Effects of frequency and duration of outdoor exercise on the prevalence of hock lesions in tied Swiss dairy cows.
(6) Hock Injury Prevalence and Associated Risk Factors on Organic and Nonorganic Dairy Farms in the United Kingdom.