酪農コラム/ワクチンを使用した仔牛の対策事例
コラム
― はじめに ―
今月はワクチンについてですが、本来であれば免疫や抗体、生体内での反応などを説明しながら進める所ですが、内容が多岐にわたり複雑になってしまいますので割愛させて頂き、カーフゲートでワクチンを用いて対策した事例の紹介とさせて頂きます。
― 設立時のワクチンプログラムの策定について ―
2005年に事業を開始するにあたり、前年に大規模農場3軒の仔牛(60日齢−120日齢)の血液検査(中和抗体価)を行い、移行抗体(初乳由来抗体)の消失時期を調べました。その結果、ワクチンブレイク(移行抗体によるワクチン株の排除)が起きないレベルまで移行抗体が低下するのは90日齢前後と判断し、1回目の接種を90日齢、2回目のブースター接種を180日齢として2回とも同じウイルス性呼吸器病ワクチンの5種混合生ワクチンとしました。
その他に、マンへミア対策として30日齢でリスポバルも接種することとしました。
1. RSウイルス対策(2009年−2012年)
事業開始から3年目以降、毎年冬になると育成前期牛舎(75日齢−150日齢)でRSウイルスの集団感染が起きていました。最初の引き金となっていたステージは75日齢−90日齢で1回目のワクチンを接種する前の牛群でした。
当初は飼養管理全般の見直し等で2年程対策を講じましたが、十分な結果が得られなかったので1回目のワクチン接種までRSウイルスの抗体低下を防ぐ目的でRSウイルス生ワクチンの追加接種を決めました。しかし、疾病(下痢・肺炎)が少なく、ストレス(牛舎移動・離乳・除角)が重ならない時期が見つからなかったので、当時は捨てワクチンと言われていた移行抗体の高い時期での接種にあたる導入日翌日(平均6日齢)としました。
その結果、学術的には効果がないとされている時期での追加接種でしたが、それ以降はRSウイルスの集団感染を現在に至るまで防ぐ事ができています。
結論としては、ワクチンの効果判定の指標となる中和抗体価(液性免疫)には表れない生体反応(細胞性免疫)で、十分に疾病を予防することが出来たと考えられます。
2.コロナウイルス対策(2013年-2015年)
RSウイルスの集団感染を抑えることに成功した翌年から、コロナウイルスの集団感染が起きるようになりました。1つの疾病を抑えると、それまで表面上問題になっていなかった別の疾病が現れる典型的なパターンでした。
当時はコロナウイルス不活化ワクチンがありましたので、RS生ワクチンと同時接種することにしました。
その結果は、症状及び感染頭数の改善はあったものの制圧には至りませんでした。そこで不活化ワクチンの1回接種では生ワクチンのように細胞性免疫を十分に刺激することが出来ないと判断し、コロナウイルスワクチンのみ追加接種を開始しようとしていた矢先にコロナウイルスワクチンが終売となってしまい2回接種を実行することができませんでした
不活化ワクチン1回接種で細胞性免疫を刺激することは難しいと判明した事例となりましたが、そもそも液性免疫主体の不活化ワクチンを2回接種しても細胞性免疫を十分に刺激できるのかは不明のままです。しかし近年では移行抗体の高い時期での細菌性不活化ワクチンの半分量2回接種で効果を実感されている牧場もあります。
― おわりに ―
今月は2つの事例を紹介させていただきました。
来月も引き続きワクチンを使用した対策事例の紹介をさせて頂きます。