獣医/分娩の管理(3) ― 優良な子牛を獲得するために(2)
コラム
続いて、健康な子牛を獲得するために、分娩前からの母牛の健康管理が重要である理由の2つ目です。
(1)妊娠末期2ヶ月の高い栄養状態は、胎子成長と新生子期免疫機能にとって重要
(2)その期間に胎子側で大きく成長するのは筋肉(+サシのもとになる細胞)
(3)妊娠初期の低栄養では、胎子の筋細胞数が増えず、将来の卵胞数も少なくなる
前回の話で、妊娠末期2ヶ月は胎子が大きく成長するため高い栄養状態が必要であると述べましたが、その時、具体的に成長するのは「筋肉」が主体です。また同時に、将来「サシ」となる筋肉内の「脂肪細胞(*)の数が増加します(図1)。この「筋肉」と「脂肪細胞」は肥育農家さんにとって最も気になる存在であることは言うまでもないと思いますが、この両者について、以下でもう少し詳しくお話ししていきます。
(* 正確には脂肪細胞になる前の「脂肪前駆細胞」も含みます)
まず筋肉についてですが、この妊娠末期2-3ヶ月の時期において、筋肉一本一本の繊維が太くなる「筋肥大」という現象が起こっており、これによって胎子の体重が大幅に増加します。これは逆にいうと、筋繊維の「数」は増えていないことを意味します(Greenwoodら、1999)。筋繊維の「数」が増えるのは、実は妊娠の初期〜中期にかけて既に完了しており、つまり、その時に繊維の数を増やしておかないと、後から増やすことはほとんどできません(Zambranoら、2005; Zhuら、2006) 。
一方の脂肪細胞ですが、筋肉が肥大するこの時期、同時に筋肉内では脂肪細胞の数が増加します(Feve、2005)。つまり、妊娠末期2-3ヶ月で十分な栄養を与えられた母牛では、生まれてくる子牛は将来的にサシが入りやすい可能性が高いと言う事になります。ただし、過剰な栄養(特に高脂肪食)は胎子の脂肪量を増加させ、筋肉の発達を抑制するため、結果的に生後の発育効率が悪くなります(Bayolら、2005)。
以上の様な「筋肉と脂肪の関係」は牛以外の動物でも広く確認されていて、哺乳類に普遍的な「生物の仕組み」と考えることもできます。実は、筋肉の細胞も脂肪の細胞ももともとは同じ「細胞」(正確には「間葉系幹細胞」)から作られていて、その細胞が「筋細胞に分化する条件(時期)」と「脂肪細胞に分化する条件(時期)」があります(図2)。そのため、牛の胎子期では図1の様なタイムスケジュールで、筋細胞が増殖する時期には脂肪細胞は増殖しにくく、筋細胞の増殖が終わってから脂肪細胞が増殖してくる、という事が起こります。
ちなみに、これらの研究の多くは、過剰な栄養というのは「要求量の150%(=1.5
)」、十分でない過少な栄養とは「要求量の50%(=半分)」としており、要求量の70〜130%の範囲では大きな違いが現れにくい、もしくは表れなかったとするものもあります。つまり「十分な栄養」とは「要求量の100〜130%」とすれば問題ないと考えられます。
次回は(3)の妊娠初期についてお話ししようと思います。