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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(22) ― 良い牛に育てるために(18)

–––臍帯炎の予防(1):分娩経過–––
 臍帯炎の予防においてまず何よりも重要なのが「臍帯を子牛に残す」ことです。「え?無くなった方がいいものが残っていた方がいいの?…ん??」と思われた方もいるかと思います。以下で説明していきます。

 臍帯炎は細菌感染症ですが、その細菌の侵入経路は「臍帯=臍の緒」または臍帯がお腹から出てくる穴である「臍輪(さいりん)」になります。この時、臍帯がしっかり残っていることで次回ご紹介する「臍帯の消毒」が実施しやすく、結果的に臍帯炎も発生しづらくなります。一方、臍帯が根元から千切れてしまうと臍輪から腹腔内が剥き出しになって感染が起こりやすくなります。加えて、腹壁が閉じずに将来的に「臍ヘルニア」になるリスクが上昇します。この様な事態を防ぐために、臍帯はなるべく子牛に残して分娩させることが望ましいです。

獣医/分娩の管理(22) ― 良い牛に育てるために(18)

 では、そのためにはどうすれば良いのでしょうか?

 答えは「分娩時に強い牽引を最後まで続けないこと」です。

 自然分娩の際、分娩後でも母牛と胎子をつなぐ臍帯はまだ繋がっていることが多く、時には拍動を続けて血流が保たれていることも珍しくありません。分娩時に人の手による介助を行なって娩出のサポートをすることは決して珍しくありませんが、そういった状況でも、牛が寝た状態での自然分娩に近い状況を再現することで、臍帯が臍の根元で断裂するリスクを回避できます。

 一方、強い牽引で最後まで思いっきり引っ張ると、臍が根元から切れてしまうリスクが高くなります。特に母牛が立った状態での分娩では、重力で胎子が地面に落ちる勢いも重なり、母体と胎子をつなぐ唯一の構造物である臍帯にはかなり強い力が加わります。「臍帯をしっかり守る」という観点から見た場合、この様な介助の方法は避けることが望ましいです。

 以下で、より具体的に理想的な分娩介助についてご紹介します。

 両前足と頭から出てくる通常の胎子姿勢の時、胎子の胸が母牛の外陰部を通過してお腹や腰が出るという状況に差し掛かったところで、牽引はストップします。この時、産道通過による胸部の圧迫や臍帯がジワジワと引き伸ばされて血流が少なくなることで胎子は低酸素状態になり、それらが一つの引き金となって胎子は自発呼吸を開始します。つまり、ここまで牽引しておけば胎子が呼吸不全で死亡してしまうことはありません。また、ここまで胎子が出ていれば母体の骨盤に胎子の腰が引っかかる、いわゆる「ヒップロック」にもなっていませんので、後は母牛が数回いきむだけで胎子はスルッと出てきます。

 上記の様な分娩経過をたどれば臍帯が根元で千切れることはほぼ無く、後は胎子をゆっくり優しく引いてあげれば臍帯が数十cm残った状態がキープできます。

獣医/分娩の管理(22) ― 良い牛に育てるために(18)

 注意点として、逆子では前述の分娩経過や介助方法は適用外です。逆子では可能な限りまずとにかく娩出させて呼吸を確保することが最優先になります。あくまで前述の分娩経過が許されるのは「胎子が両前肢と頭から娩出される通常分娩の時だけ」であることをご理解ください。

 なお、もし臍帯が臍の根元で切れてしまって臍輪が剥き出しになった場合、できる限り獣医師に処置依頼してください。農場の方々で自ら簡易に処置するのであれば、まず母牛とは別飼いにし、綺麗な環境で臍や作業者の手指をよく消毒した上で、「文房具のクリップで挟む」「大型のホチキスで塞ぐ」「去勢用のゴムリングで縛る」「結束バンドで縛る」などの方法があります。ただし最も大切なのはこれらを「衛生的な手技で実施する」ことです。汚れた環境や手指で作業すると逆効果ですので、ご注意ください。

 残り2つは次回ご紹介します。ポイントは「清潔な乾燥した環境を保つ」「臍帯は外側だけ消毒し乾燥させる」です。