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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(23) ― 良い牛に育てるために(19)

––– 臍帯炎の予防(2):分娩環境 –––
 このセクションは臍帯炎予防にとって最重要と言えます。

 分娩環境を清潔に維持することさえ出来れば、このあとご紹介する臍帯の消毒なども必要ないと言われるほど、分娩環境の衛生度は重要です。逆に言いますと、分娩環境の改善や衛生度の向上を目指さず、臍局所の処置などだけで臍帯炎を予防していく事は非常に難しいと言えます。
 以下で詳しく見ていきます。

 分娩直後の濡れた臍帯にはすぐに敷料などが付着します。その敷料が糞便で汚染されていたりすると、臍帯もすぐ汚染されてしまいます。新鮮で綺麗な敷料にも一定数の細菌は存在しますが、一度付着した敷料からは病原性細菌がすぐに臍帯に感染し、その後適切な消毒処置をしないと細菌が定着→臍帯炎へと容易に移行していきます。例え見た目には綺麗に敷料を除去したとしても、敷料が付着したその瞬間に臍帯は大量の細菌によって汚染されています。3秒ルールは通用しません。

 臍帯炎予防の観点から見た場合、分娩環境は「乾燥した清潔な状態を維持すること」が非常に重要です。そのために考えなければいけない敷料に関連する要素は以下の3点です。

● 水分量:水分量が多いと細菌が増殖しやすい & 臍帯に付着しやすい

● 粒度 :細かい粒子の鋸屑は臍帯に付着しやすく除去がほぼできない & 臍帯断裂した場合に臍輪から腹腔内へ容易に侵入する

● 汚染 :見た目が綺麗でも大腸菌群やカビで汚染されている敷材がある

 以上の3点から、現在のところ最も理想的な敷材は「細断していない麦稈や稲藁などの長い乾草」だと考えられています。ただし、細菌やカビによる汚染は目には見えないので、必要に応じて次でご紹介する臍の適切な消毒実施が推奨されます。

 この一連の話ですが、実は過去に初乳のコラムでもその重要性をご紹介しました(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=43)。

 つまり、初乳の吸収性を考えても、臍帯炎の予防を考えても、分娩環境を衛生的に維持することは子牛にとって最重要であると言えます。

 なお、上記のように部屋全体の衛生度を高く維持できることが理想ではあるものの、それが難しい状況もあるかと思います。その様な場合は、生まれ落ちる子牛の周辺だけでも長藁や清潔なビニールシートを敷いて、牛床との接触を防ぐことが推奨されます。こちらの話題も、一部以前のコラムで紹介しております(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=68)。

獣医/分娩の管理(23) ― 良い牛に育てるために(19)

––– 臍帯炎の予防(3):臍帯処置・消毒 –––
 臍帯炎予防にまつわる話の最後は臍帯の処置と消毒です。

産後の臍帯処置に関しては、ヒトの医療分野でも過去様々な手法が用いられてきました。また現在でも、その国の医療水準や院外分娩かどうかによって、最適な処置方法は異なり、統一された方法はないとされています(1)。
その様な中でも確実に「ここだけは外せない重要なポイント」とされていることは以下の2点です。

●発展途上国や病院外での急産など、分娩環境や臍帯処置が無菌的ではない場合、外用消毒薬の臍帯への塗布は臍炎および新生児死亡のリスクを低減する(1、2)

●臍帯(臍帯基部である臍輪〜臍帯断端を含む)を清潔で乾いた状態に保つ。出生24時間以降の臍の継続的消毒は臍の乾燥を妨げるため、一定以上の衛生レベルが維持されてれば必要ない(消毒継続しなくても臍感染リスクは上昇しない)(1, 3, 4)

ではこれらを踏まえ「畜産の現場において最適な産後の臍帯処置・消毒の方法は何か?」と考えた時、現在のところ「分娩直後に1回のみ臍帯外側をアルコール含有消毒液(*)で入念に消毒し、その後は乾燥させる」が最も有効だと考えられています。

(*) 希ヨーチン、10%ポピドンヨードアルコール、0.5%クロルヘキシジンアルコール、など

次回はその理由などをご紹介していきたいと思います。


––– 参考文献 –––
(1) Consolini, 2019; 正常新生児の評価とケア, MSD マニュアル
(2) Sinha et al, 2015; Chlorhexidine skin or cord care for prevention of mortality and infections in neonates. Cochrane Database Syst Rev.
(3) Sazawal et al, 2016; Efficacy of chlorhexidine application to umbilical cord on neonatal mortality in Pemba, Tanzania: a community-based randomised controlled trial. Lancet Global Health.
(4) Imdad et al, 2013; Umbilical cord antiseptics for preventing sepsis and death among newborns. Cochrane Database Syst Rev.