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タイセイ飼料株式会社

酪農コラム/ケトーシス(後半)

 第6回(最終回)は前回の話題に引き続きケトーシスの話になります。
 「エネルギー不足になりやすく、脂肪を使うのが苦手な牛」のその後についてです。

臨床型・潜在性ケトーシス
 突然ですがケトーシスの原因はケトン体と呼ばれる物質です。近年、流行りの「糖質制限ダイエット」に関連して出てくる用語でもあり、ご自身の体重を気にされている方はどこかで見聞きしたことがあると思います。
 牛がエネルギー不足に陥り、体内で脂肪の利用が順調に進まないとケトン体という脂肪の燃えカスのような物質(βヒドロキシ酪酸:BHBA)が体内に蓄積してしまいます。ある程度の量までは牛は平気なのですが、過剰になると食欲が低下し一般的なケトーシス(臨床型ケトーシス)と呼ばれる状態になります。

 余談ですが、ケトーシスの状態を「二日酔い」で例えられることがあります。「二日酔い」の場合、アルコールを肝臓で分解することでできるアセトアルデヒドという物質が主な原因です。このアセトアルデヒドには、吐き気や動悸、頭痛などを引き起こす働きがあり、これが「二日酔い」症状の原因となるのです。実際ケトーシスの牛が吐き気や頭痛など起きているか確認したことはありませんが、食欲が低下することは似ているなと思います。
 アセトアルデヒドも体内でβヒドロキシ酪酸になるので、原因物質としても同類といっても過言ではないかもしれません。
 またケトーシスの牛は吐く息や体臭が変わることも「二日酔い」にそっくりです。人によって表現が異なりますが汗臭いような、ワインの香りとも表現される、何とも言えない香りが漂います。一度、ケトーシスを疑われる牛の鼻先に顔を近づけて感じ取ってみてください。

 一方、血中や尿中・乳汁中のケトン体の増加があるものの、食欲が低下しない状態を潜在性ケトーシスと呼び、臨床型につながる一歩手前の状態で、近年では牛群管理の観点からも活用されています。
 最近では旬報・牛群検定・搾乳ロボットでの付帯設備などで数値が確認できるようになり、早期治療のきっかけや飼養管理の調整に活用されています。

減るのは脂肪だけではない
 ケトーシスでは「エネルギー不足」が注目され「痩せる=体脂肪の減少」はイメージしやすいのではないでしょうか。一方で、実際には筋肉などを構成している蛋白質もエネルギー確保のため利用されてしまいます。
 お産を重ねるたびに後ろ足が細くなっていく牛や、尿膣になってしまう牛などがその代表例です。また、お腹の中の内臓をつないでいる(吊るしている)腸間膜などの腹膜は蛋白質の一種であるコラーゲンでできています。その腹膜が弱くなることで、第四胃変位になりやすい牛になってしまうともいわれます。実際、ケトーシスから第四胃変位を発症したような牛の手術では、今にも破れそうな脆弱な腹膜に触れることがありタンパク質の消費(消耗)を実感することができます。

 他にも身体の機能を調整している酵素やホルモンの多くはタンパク質で構成されており、タンパク質の不足は様々な体の不具合につながります。一度ケトーシスになった牛は食欲が回復した後も、血中のアミノ酸(タンパク質の材料)のバランスが長期間にわたり崩れ、繁殖成績にも悪い影響を及ぼしているとも言われています。

 「蛋白質を体に貯める」にはどうしたら良いでしょうか。人間であれば筋力トレーニングをして筋肉を増大させることができますが、牛ではどうでしょうか。
 子牛、育成牛の時期にしっかりと体を作り、分娩後の搾乳時期に消耗を抑え、乾乳期で再び補っていく事が大切になります。

 高い生産性を求められる搾乳牛にとっては宿命とも言えるネガティブエネルギーバランスですが、可能な限り低減できるよう心がけていきたいです。

最後に
 半年間お付き合いいただきました皆様、また執筆の機会を頂きました関係各位に御礼申し上げます。専門的な話題・言葉になり過ぎず、かつ牛の栄養と病気のことを少しでも身近に感じて、何か「牛と餌」のことを考えるきっかけになればという思いで書かせていただきました。

 この歳になり文章を書くことが苦手であることを再認識し、毎回、拙い文章で申し訳ない気持ちでいっぱいでした。今後、現場でお会いする機会ありましたら、皆様と共に酪農・餌などなど考えていければ幸いです。