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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(37) ―次の妊娠・分娩へ向けて(12)

––– 分娩後の飼養管理改善による繁殖障害予防 –––
 長きにわたってご紹介してきました「繁殖に関わる分娩前後の飼養管理」もいよいよ終盤になってきました。これまでは、分娩前と分娩時の飼養管理がその次の繁殖成績に大きな影響を与えることを色々な角度からお話ししてきました。最後のセクションは「分娩後の飼養管理」について記載したいと思います。

● 分娩前の飼養管理:
 ・栄養の充足と分娩の関係
 ・環境の改善による難産・死産の低減

● 分娩時の飼養管理:
 ・環境の改善
 ・助産の手技
 ・難産の回避

● 分娩後の飼養管理:   ← いまココ
 ・胎盤停滞の回避
 ・栄養の充足

 分娩前の飼養管理はバッチリで、分娩時にも気を遣って快適な環境を用意し衛生的で無理のない助産に勤めていれば、その時点で産後の生殖器(卵巣や子宮)への悪影響はほぼありません。分娩後は順調に生殖器の機能が回復し、その次の受胎へ向けて良好な繁殖成績が得られる……

 と言いたいところですが、なかなかそう上手くいかないのが牛の難しいところです。やはりその後の飼養管理が不適切だと、なかなか受胎せずに空胎延長へと繋がってしまうことは珍しくありません。過去のコラムに記載した通り、分娩後に子宮炎・子宮内膜炎になってしまうかどうかは分娩前の飼養管理に大きく左右されますが (http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=86)、分娩後の飼養管理ももちろん重要です。ここでは2つのポイントからそのお話をしたいと思います。

––– 胎盤停滞を回避する –––
 胎盤停滞 = 後産停滞は繁殖和牛では発生が少ないですが、乳牛では珍しくありません。乳牛では周産期疾病の一つに数えられる疾患であり、学術的には分娩後12時間を経過しても後産が排出されないことを言います (2) 。しかし、臨床的に牛への悪影響が現れる時間はもっと短く、分娩後6時間を超えても胎盤排出されないとその後子宮炎に罹患するリスクが上昇し空胎日数が有意に延長することがわかっています(3)。そのため、胎盤は6時間以内に排出されることが理想といえます。過去のコラムではその発生要因や分娩前の飼養管理による予防方法について記載しています
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=84)、
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=89
が、ここでは分娩後の話をご紹介します。

 胎盤停滞に対してよく利用される方法として「オキシトシン」の投与があります。過去様々な報告があり、その効果については一定の見解が得られていない節もありますが、弊社では可能な限り投与を推奨しています。具体的には過去の研究報告 (4) を参考に、分娩後3-4時間でオキシトシン50IUを筋肉内投与します。さらに、その後2時間以内に胎盤排出されない場合は再投与を行います。

––– 栄養を充足させる –––
 乳牛では分娩後に搾乳がスタートするため、その高いエネルギー要求量を満たす様に分娩後の飼料は設計されています。それでも採食量 (乾物摂取量) が上がっていかなければエネルギー状態はマイナスになり、牛が痩せていく原因ともなります。その様な栄養不足の状態では子宮や卵巣の回復も悪くなり、繁殖成績は低迷します。乳牛で高い繁殖成績を達成するためには、分娩後の立ち上がりをスムーズにしてなるべく早く乾物摂取量をピークに持っていくことが必要だと言われています。

では、繁殖和牛ではどうでしょうか?近年は親付けで哺乳する農場と比べて、早期に母子分離して人工哺育する農場も増えてきていると思います。その様な人工哺育の場合、母牛が良好な繁殖成績を得るための飼料メニューはどうすれば良いでしょうか?母牛はミルクを出すためのエネルギーは必要ないので、分娩後は妊娠維持期のメニューで良いのでしょうか? 

 次回、詳しくお話ししたいと思います。


― 参考文献―
(1)Sheldon, 2008. Uterine diseases in cattle after parturition. The Veterinary Journal. 176(1):115-121.
(2)浜名ら, 2006. 妊娠と分娩. 獣医繁殖学 第3版: p.194.
(3)Werven et al., 1992. The effects of duration of retained placenta on reproduction, milk production, postpartum disease and culling rate. Theriogenology. 37(6):1191-1203.
(4)Magata et al., 2021. Prevention of retained fetal membranes and improvement in subsequent fertility with oxytocin administration in cows with assisted calving. Theriogenology. 176(12):200-205.