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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(38) ―次の妊娠・分娩へ向けて(13)

––– 繁殖和牛の分娩後の栄養 __ 人工哺育の場合 –––
 肉用繁殖母牛の栄養管理として、国内外問わず一般的には以下の3つのステージに分けて実施することが推奨され、また現場でも指導実践されてきたかと思います。

* 維持期
* 分娩2ヶ月前(増飼期)
* 親付け哺乳中(授乳期)

 国内では近年、親付けで哺乳する農場と比べて早期に母子分離して人工哺育する農場も増えてきていますが、人工哺育の場合、母牛はミルクを出すためのエネルギーは必要ないので、分娩後は維持期のメニューで良いようにも思えます。国内における餌や管理の技術体系を一般化した「日本飼養標準_肉用牛編」の最新版である2022年版でも、授乳していない母子分離した母牛の分娩後栄養管理について特別な言及はありません。やはり維持期の餌で良いのでしょうか?

 これは明確な結論が出ていない課題の一つであると言えますが、いくつかの研究報告が「分娩後も高栄養度を維持することが繁殖性を改善させる」という結果を導いています(1、2)。つまり、分娩後すぐに維持期の餌に変更して栄養度を抑えることは、繁殖のことを考えると得策ではありません。分娩後は子宮も卵巣もその機能が十分に回復していないため、その「生理的な回復」には相応の栄養充足が必要です。その必要量が具体的にどれくらいなのかは未だに分かっていませんが、少なくとも「維持期の飼料体系よりも栄養度を高くすると回復が早まる」ことが分かっており、分娩後も増飼を続けることで以下の点から空胎日数の短縮が可能です。

* 初回排卵の早期化
* 初回発情の早期化
* 初回授精日数の短縮
* 初回授精受胎率の向上

 弊社でも「分娩後の高栄養維持」に取り組んでおり、複数の農場でその効果を実感しています。以下に一例をご紹介します。
 
・分娩後も配合飼料を3.0-3.5kg/頭/日で給与
・分娩前の増し飼いと同じメニューを分娩後も続ける

 これによって特に「初回発情の早期化」と「分娩後20-30日におけるフレッシュチェック時の子宮回復」が認められるので、結果的に「早期の初回授精」と「初回授精受胎率の向上」が達成できます。

 ただし注意点として、高栄養管理は長く続けると過肥につながるため、それはそれで受胎しにくい母牛になってしまいます。高栄養の期間は分娩後1ヶ月から長くても2ヶ月までにしましょう。

獣医/分娩の管理(38) ―次の妊娠・分娩へ向けて(13)

––– 繁殖和牛の分娩後の栄養 __ 自然哺育の場合 –––
 分娩後の母牛に子牛をつけて哺乳させる、いわゆる「親付け(自然哺育)」は肉用繁殖牛では一般的な手法として実践されています。授乳期の母牛は母乳を出すための栄養が必要であり、その必要量は分娩前の増飼分よりも多くなります。つまり、この哺育期間に十分な栄養を母牛に与えなければ母牛が痩せていくことは明白であり、その結果、子牛の栄養状態も母牛の繁殖状態も悪化してしまいます。
 授乳期の母牛に給与すべき飼料や養分量は、維持期を100%とした場合におおよそ以下のようになります。

(維持期に必要な養分要求量 + 乳量6kg/日に必要な養分要求量 として)
* 乾物量 = DM :140-150%
* 可消化養分 = TDN :160-170%
* 粗タンパク = CP :190-200%

これを満たすためには、維持期の飼料に追加して、

・配合飼料:+3.0-3.5kg 
・粗飼料 :+0.5-1.0kg

が必要になります。養分要求量の増加分から分かる通り、特にタンパク質の要求量が非常に増えます。これを補うには通常の繁殖用配合飼料よりも、実は高タンパクな育成配合やスタータが有効です。

獣医/分娩の管理(38) ―次の妊娠・分娩へ向けて(13)

––– 繁殖和牛の分娩後の栄養 __ 最後に –––
 ただし、授乳量や分娩前の母牛の太り具合は牛によって様々なので、最も重要なことは「牛によって最適な餌の量を給与する」と言うことになります。人工哺育でも自然哺育でも、いずれのケースでも「太らせない & 痩せさせない」 の両方が必要になります。

 このような栄養管理は、特に放牧と組み合わせた季節繁殖を実践している地域(北米やヨーロッパの一部)で重要であり、特定の期間内に受胎できなければその後約1年間は空胎になってしまいます。過去の研究では「痩せている牛が痩せていく」または「太っている牛が太っていく」ケースで空胎となる割合が高くなり、繁殖成績を悪化させました(3)。つまり、分娩後に痩せていても太っていても、それを適切なコンディションに近づけていくことが妊娠の割合を高めることになります。

獣医/分娩の管理(38) ―次の妊娠・分娩へ向けて(13)

 生まれてくる子牛が収入のほぼ全てである和牛繁殖経営では、いかに空胎を短くして1年間に生まれてくる子牛の数を増やすかが重要になります。今回のコラムを読んで、分娩後の母牛の栄養管理が繁殖にとってとても重要であることを改めて意識してもらえると嬉しいです。

― 参考文献―

(1)大島ら, 2018. 黒毛和種繁殖雌牛における分娩前後の適正な栄養水準の解明. 栃木県畜産酪農研究センター試験研究成果集業務報告書. (3)12-13.
(2)Ciccioli et al., 2003. Influence of body condition at calving and postpartum nutrition on endocrine function and reproductive performance of primiparous beef cows. J Anim Sci. 81(12):3107-20.
(3)Houghton et al., 1990. Effects of body composition, pre- and postpartum energy level and early weaning on reproductive performance of beef cows and preweaning calf gain. J Anim Sci. 68(5):1438-46.