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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(39) ―次の妊娠・分娩へ向けて(まとめ)

––– 分娩前後の飼養管理改善による繁殖成績向上 –––

 これまで約1年に渡り、分娩前後の母牛の飼養管理がどのように繁殖に影響を与えるのかご紹介してきました。環境や餌といった飼養管理によって牛は良くも悪くもなることは皆さん当たり前のように実感されていると思いますが、繁殖成績の改善というターゲットを見据えた時、農場によっては分娩前から対策を実践していくことが必要というケースも少なくありません。また、分娩時に目立ったトラブルがないという理由から、乳牛でも肉牛でも「分娩後は子宮卵巣の自然な回復を待って分娩後40-60日経ってから子宮や卵巣の状態をチェックする」というケースは日本では珍しくないと思いますが、より早期に治療開始することの有効性を示す報告は複数あり(1、2、3)、MSD Veterinary Manualでは分娩後21日の時点で子宮炎の有無を判断し治療開始することが推奨されています(4)。

 しかしそうは言っても、現在の国内の獣医療状況を考えるとそこまで早期の診察を受けることが難しいケースや地域も多くあるかと思います。その様な情勢だからこそ、繁殖障害になるリスクを極力減らす様な飼養管理を実践することの重要性は増していると思います。細かい内容は過去のコラムに記載していますが、分娩前後におけるポイントは大きく以下の3つになります。

1.分娩前における快適な環境 (特に牛床) の提供と栄養充足
2.分娩時に介助が必要な際には衛生的に注意して実施
3.分娩後も栄養状態を良好に維持

 これらを実践してきた農場さんでは、繁殖のトラブルが非常に少なくなっていきました。結果が出てくるとやはりやる気も出てきて、同時に数ヶ月先のことでも見通せるので、新たなことにチャレンジする余裕が出てきます。その様な「正のスパイラル」が皆さんの農場にも生まれることを願っています。

 その上で、一点だけ私も予想していなかった落とし穴があった内容をご紹介したいと思います。具体的な数値データがほとんどない、あくまで農家さんとの目合わせによる主観も含まれる内容となりますがご了承ください。

–––– 事例紹介:牛床改善による飼料効率の向上 –––
 ご紹介したい内容は、とある酪農家さんと取り組んだ牛床改善の話です。

 こちらの酪農家さんは乾乳も含めた全てのステージを通じてもともと過肥の牛がほとんどいない、繁殖や餌の管理が非常に上手な農場でした。その一方で牛床管理には課題を感じていました。敷材であるノコクズの高騰などもあったため乾乳舎における敷料交換の頻度が低下し、結果的に牛床の状態が悪化しがちでした。その結果、牛は横臥時間が低下し、少しでも綺麗な場所で寝ようとする牛たちが特定のエリアに密集することで「局所的な過密」ができていました。そうなると以前のコラムでもご紹介した通り、牛は自由な寝起きや寝返りができなくなり、結果的に胎子失位や子宮捻転が散発し、分娩事故が少なくありませんでした。

 解決のためには牛床改善しかありません。その効果と必要性を何度かお伝えしたところ、農場主は牛床に使える適切な敷材を定期的に確保してくれる様になりました。現場スタッフも牛床管理の重要性や効果をしっかり理解してくれたので、おかげで牛床は綺麗に維持できる様になりました。そうすると牛はしっかり寝てくれる様になり、十分なスペースで寝返りが可能となったことで以前のような胎子失位や子宮捻転は劇的に減りました。分娩トラブルや難産が減ったことで子牛の生存率が上がったと同時に、その後の繁殖への悪影響も少なくなっていきました。

 このように非常に順調に課題解決が進み数ヶ月経過し、以降も同じ管理を続けていました。ですがその中に、実は落とし穴がありました。

「(池) どうも最近牛が太ってませんか…?」
「(農) 生まれてくる子牛も大きい…」
「(農) そのせいか難産が増えた気がする…」

 そうなんです。牛が太ってきていました。子牛も大きくなってきていました。その結果、また難産が増えてきました。

 実は牛は寝ている時間が長いと消化管や子宮へ流れる血流量が増えるため、食べた餌の消化が良くなり胎子への栄養供給が増加します。もちろん、母牛自身の栄養充足度もアップします。なお、寝ている時間が長いと乳房への血流量も増えるので、乳量が増加します。

獣医/分娩の管理(39) ―次の妊娠・分娩へ向けて(まとめ)

 つまり牛床環境をよくしたことで食べた餌が効率的に利用される様になり、「飼料効率が上がった」ことが予想されました。

 現在は、乾乳前期の飼料濃度を落として経過観察中です。
 飼料価格が高くなっている今、牛床環境を改善することで飼料効率が上がればこれまでよりも少ない飼料で栄養充足できる可能性もあります。改めて飼養管理の大切さを実感した事例でした。


― 参考文献―
(1)Okawa et al., Effect of diagnosis and treatment of clinical endometritis based on vaginal discharge score grading system in postpartum Holstein cows. J. Vet. Med. Sci. 2017, 79:1545–1551.
(2)Yu et al., A weekly postpartum PGF2α protocol enhances uterine health in dairy cows. Reprod. Biol. 2016, 16:295–299.
(3)Borchardt et al., Randomized clinical trial to evaluate the efficacy of prostaglandin F2α to treat purulent vaginal discharge in lactating dairy cows. J Dairy Sci. 2018, 101(12):11403-11412.
(4)Lima, Endometritis in Production Animals. MSD Veterinary Manual. 2022, Aug.