獣医コラム/肢蹄病の原因と予防(7)- 蹄の病気について
コラム
先月までDDの原因・病態・治療と掲載してきましたが、今月はDDの『予防』について掲載していきたいと思います。
––– DD(趾皮膚炎)予防方法とは? –––
さて、DD対策のゴールデンスタンダードは『皮膚の健全性を保つ事』であると8月のコラムに掲載しました。ですが、フリーストール/フリーバーンにおいては少なからず糞尿に汚染されるリスクを伴います。そのため、DDの予防にはみなさんご存知の『蹄浴』が主役を担うことになります。
では、効果的な蹄浴を行うにはどうしたら良いのでしょうか?
まず『理想的』な蹄浴方法について下記にまとめます。
① 1本の足が2歩以上薬液に浸かる
② 薬液の深さは12cm以上(副蹄まで浸かる)
③ 薬液の濃度が正確である
④ 粉末から薬液を作る場合には粉末が水に溶けている(沈澱していない)
⑤ 薬液のpHが重要になる薬剤は、使用前 ⇄ 使用後でpHを測定し有効性を確認
さて、5つほど要点を掲載しましたが、それぞれの理由を下記にお示しします。
①に関しては蹄浴槽の長さ/高さに影響を受けます。過去の報告を見ると、蹄浴槽の形状 ⇄ 蹄浴槽内での後肢における歩数の関係 は以下のように報告されています。
・長さ3m、高さ28cmの場合:95%以上の牛が2歩薬液に浸かる
・長さ2.4m、高さ28cmの場合:85%程度の牛が2歩薬液に浸かる
・長さ2.4m、高さ15cmの場合:75%程度の牛が2歩薬液に浸かる
・長さ1.8m、高さ15cmの場合:50%程度の牛が2歩薬液に浸かる
上記の結果を見ると、後肢が2歩以上蹄浴槽内で浸かる『完璧』な蹄浴槽を作成するには3m以上の長さが必要といえます。
②に関しては、薬液の深さとして『最低でも12cm』が推奨されています。これには『副蹄まで浸かる十分な薬液の深さ』が必要であるという理由があります。つまり、リターン通路などの傾斜がついている場所に蹄浴槽を設置した場合、薬液が最も浅い場所でも12cm以上の深さが推奨されるという事になります。
③、④、⑤に関しては基本的な内容なのですが、念の為掲載しています。⑤に関しては硫酸銅などを使用する場合に、pHが農家さん別/製品別で異なる事例があるため掲載しています。
さて、理想とする蹄浴方法を掲載しましたが、牧場ごとに全ての要因を満たすことが難しい場合も多々あります。
現場で見る一般的な蹄浴槽の長さは1.8m、深さは内寸で15cmほどです。これらの蹄浴槽を傾斜のある場所に設置した際には、使用前であったとしても薬液の深さが12cm未満になってしまう事例を散見します。
では、これらの蹄浴槽を使用する場合には全く効果がなくなってしまうのでしょうか?私は『NO』であると考えています。
私がコンサルタントとして農場をお手伝いする際に、理想的なサイズの蹄浴槽をお持ちの方は殆どいません(要望がある場合には農場に適したサイズの蹄浴槽をオーダーメイドで作成する事はあります)。基本的には農場にある蹄浴槽を利用し週2回前後の蹄浴から始めますが、薬液の深さが12cmを下回ってしまう場合でも、農場に適した蹄浴プログラムを組めばDDを減らすことができます。ただ、薬液の深さで一点気をつけているのは、使用後であっても8cm程度は深さを持たせる事です。この8cmという薬液の深さは、DDの好発部位に薬液が浸かる事を目的としています。
全道各地を回っていると、過去に蹄浴の効果を得られなかったという相談を受ける事があります。ただ、その場合には何らかの要因で『農場に適した蹄浴』になっていなかった可能性があります。
搾乳施設がパーラー or ロボットにより蹄浴のプログラムは異なりますが、農場に適した蹄浴を行えばDDは必ず減ります。前述した内容が少しでも農場に適した蹄浴方法の参考になれば幸いです。
(文責:牧野 康太郎)
― 参考資料―
① A survey of foot disinfection practices for control of bovine digital dermatitis:Evaluating solution depth, footbath hygiene, and the potential of footbaths as infection reservoirs for Treponema species
② Observations on the design and use of footbaths for the control of infectious hoof disease in dairy cattle
③ Designing your footbath using the footbath fitness test