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タイセイ飼料株式会社

酪農コラム/牛の食欲不振

 以前、私が勤務していた家畜診療所では毎朝、連絡の入った農場名と牛の症状(稟告)がホワイトボードに書き出され、担当獣医師を割り振り診療に赴いていました。その診療依頼(初診時)の中で最も多い稟告は「食欲不振」です。
 読んで字の如く「食欲が不振(振るわない)」=「いつもより食べない」です。前回までの話題であった乾物摂取量(DMI)が疾病により通常より減少した状態ということです。

 「食欲不振」と一言で表現しても、経験的には様々な「食欲不振」があります。
 農場・人によって様々な分け方があると思いますが、個人的な見解ですが下記のような情報があると牛を診察するのに助かります。

飼料の種類による分類
「濃厚飼料を食べない」
「牧草を食べない」
「特定の草種の牧草を食べない」
「飼料の種類に関係なく食べない」など

時間(経過)による分類
「急な採食量減少(前日or午前中までは普通に食べていた など)」
「数日前から徐々に採食量が減少してきた食欲不振」
「分娩前から継続している食欲不振」
「採食量の減少と回復を繰り返す食欲不振」など

採食量減少の程度
「食思廃絶(まったく食べようとしない)」
「食思減少(食べる気持ちはあるが採食量が少ない)」
「食べる速度が緩慢(食べる気持ちが弱いものの採食量はほぼ通常量)」など

 活用例としては、「濃厚飼料を食べない」「急な採食量の減少」などが組み合わさると私は第四胃左方変位を疑いたくなり、さらに「粗飼料を食べない」や「食思廃絶」の状態が追加されると第四胃右方変位・捻転の可能性も高まる、といった病状の変化も推察することができます。
 このような食欲不振の特徴は、タイストール(繋ぎ牛舎)・分離給与(各種飼料を別々に給餌する方法)などの飼養管理だと観察しやすくなります。

 近年増加している多頭数の群管理において、TMR(Total Mixed Ration)を給与していると上記のような情報は欠落しやすくなってしまいます。さらに食欲不振牛の発見のきっかけが「乳量の低下」「活動量の低下」「反芻時間の低下」など間接的な情報になることが多く、採食量が低下してから時間が経過している(病状が進行している)ケースも増え治療のハードルが高くなってしまいます。
 そのため群管理において分娩前後など疾病になりやすい時期は、観察しやすい環境を整えていくことが大切です。

氷山の一角
 はっきりとした食欲不振(疾病)の牛は「氷山の一角」とも言え、他の牛が一見、健康に見えても水面下では不具合が発生している可能性があります。水面上に見えている「疾病の特徴」を把握することで農場の潜在的な問題点を探ることもできます。
 すべて理想的な飼養管理にすることは困難ですが、疾病の種類や発症した状況などを整理して、本当に必要な改善ポイントを見つけていきましょう。

 まずは牛の「食欲不振」の原因の一つであり、牛の代表的な疾病でもある第四胃変位について紹介したいと思います。

第四胃変位(DA:Displacement of the Abomasum )
 牛は複数の胃(4つ)をもつ反芻動物です。大まかには1~3番目の胃は牧草を十分に消化するための仕事をして、4番目の胃(以後:第四胃)が我々人間の胃と同じように胃酸を出しています。
 通常、その第四胃は腹底(おなかの中の一番下)に位置しますが、第四胃内にガスが貯まりお腹の底から動いてしまう病気が「第四胃変位」(通称「四変(よんぺん)」)と呼ばれています(私は「浮いてくる」イメージを持っています)。

 第四胃が牛の左側に移動すると左方変位(LDA:Left DA)、右側に移動すると右方変位(RDA:Right DA)、さらに右方変異の場合は胃が反時計方向にねじれた第四胃捻転に分けられ、酪農に関わる方なら一度ならず耳にする言葉ではないかと思います。
 私たち人間の胃が膨らんでお腹の中で他の臓器の間に挟まったり、捻じれたりしていることを想像してみてください。

酪農コラム/牛の食欲不振

 実は成牛の第四胃変位は世界的にも初報告からまだ100年も経っていません。国内では1961年に初めて報告され、比較的「新しい病気」といっても過言ではありません。私がまだ新米獣医師の頃、年配の先生方から「治らない食欲不振・ケトーシス」と呼ばれていた疾病が増えた時代があったことや、道南地域で初めての第四胃変位の診断・手術を経験した話を伺ったことがあります。

 牛の産乳量の増加(濃厚飼料の増給)に併せて発生が増加しているとも言われる第四胃変位ですが、今や発生も治療(手術)も慣れてしまっている農場・獣医師も少なくないのかもしれません。反対にほとんど第四胃変位が発生しない農場もあり、決して克服できない病気でもありません。
 次回はその第四胃がお腹の中で浮き上がってしまう原因について少し整理していきたいと思います。