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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(36) ―次の妊娠・分娩へ向けて(11)

––– 助産時の衛生度が空胎日数に与える影響 –––
 以前のコラムにおいて、難産介助=助産は不衛生になりやすく難産スコアが上がるにつれてその後の繁殖性が低下し、空胎日数が延長することをご紹介しました(http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=95)。このコラムの中で紹介した研究報告は、北海道酪農検定協会における乳用牛の記録から得られたデータで解析が行われていましたが、では、難産になると空胎の延長は避けられないのでしょうか?清潔な助産に努めるとは言え、感染による悪影響はどうしようもないのでしょうか?

 結論から言いますと、衛生的で適切な分娩介助が実施できれば一定以下の難産では空胎への悪影響が抑えられる可能性が高いと言えます。

 以下に示すデータは、弊社の顧客酪農家さんで分娩にとても高い気遣いと注意が払われている農場における、牛群検定記録から抜粋した分娩難易度と空胎日数の関係を示した内容になります。過去数年分・合計1,800件以上の分娩とその後受胎した牛における空胎日数を解析しました。

獣医/分娩の管理(36) ―次の妊娠・分娩へ向けて(11)

 この農場では、前述したコラムでご紹介した通りの手法で難産介助を実施しています。つまり、介助を実施する前には外陰部周辺をよく洗い綺麗にし、直検手袋とゴム手袋を装着した上で産道内に手を入れて助産を行います。そうすることで、スコア3(2-3人による助産)までは難産の影響なく空胎日数の延長は認められませんでした。これは過去のいくつかの報告(1、2)で示されている「スコア3以上では空胎日数が延長する」という内容とは異なる結果でした。むしろスコア1よりもスコア2や3では空胎日数が短縮していました。この点についてはより詳細な要因の解析が必要だと感じています。

 一方、分娩後に廃用となった、または交配を続けていたけれども受胎せず繁殖中止となった牛の割合をスコア別に解析したところ、以下の様な結果となりました。

獣医/分娩の管理(36) ―次の妊娠・分娩へ向けて(11)

 スコアが上がるにつれて廃用・繁殖中止となる割合は増加し、特にスコア5(外科的介入=帝王切開)で分娩した牛では48.4%が受胎に至りませんでした。この結果から、廃用や繁殖中止に至った症例では、助産時の単純な細菌感染というより難産に起因する産道の物理的・組織的損傷が発生していた可能性が考えられました。

 この農場の実例をまとめますと、ポイントは以下の2点になります。

●助産の衛生度を上げると難産スコア3以下では空胎日数への悪影響を抑えられる可能性が高い

●ただしスコアが上昇するにつれて受胎しない牛の割合は増加する

 分娩後の繁殖を考えると、やはり難産は避けられるに越したことはありません。産道損傷などは見落とされているだけの可能性も高く、受胎への悪影響は少なくありません。その上で、もし助産をするとなった際には衛生度には常に気を使って実施してもらえると、少なくとも細菌感染による悪影響は抑えられると思います。


― 参考文献―

(1) 河原ら, 2013. ホルスタインの泌乳量,繁殖性,死産および経済的効果に対する分娩難易の影響. 日本畜産学会報 84(3):309-317.
(2) Dematawewa and Berger, 1997. Effect of dystocia on yield, fertility and cow losses and an economic evaluation of dystocia scores for Holsteins. Journal of Dairy Science. 80:754-761.