獣医/機能性飼料素材 (6)
コラム
––– 目に見えない未消化物 –––
機能性飼料素材として、続いては「消化酵素」の話をしていきたいと思います。が、その前に、飼料の「消化」と「消化の具合を評価する方法」について少しご紹介したいと思います。
牛が食べたエサは、そのままの状態では牛にとって栄養にはなりません。与えた飼料が牛の栄養となるためには、まずしっかりと「消化」されることが必要であり、かつ、そのあとに「吸収」されることで、初めて牛にとって使える「栄養」となります。牛はその過程の多くで微生物の力を借りて餌を消化しますが、餌の品質が悪かったり牛が病原体に感染すると、消化管内の微生物に悪影響がおよぶ事は珍しくありません。その結果、正常な消化ができなくなったり牛の健康状態に悪影響が出てしまい、最悪の場合、牛は死に至ります。その様なことにならない様に、農場で働く皆さんは日々「餌の状態」「餌への食いつき」「糞便の状態」などを観察・確認されていると思います。その中で特に、「糞便」は牛が食べた餌が消化・吸収された後の残りが出てくるので、牛の健康状態や消化管の健全性だけでなく、餌の品質を間接的にチェックすることにも利用できます。
皆さんも経験あるかもしれませんが、デントコーンサイレージを与えたところトウモロコシの粒が消化されず糞便中に出てきたり、イネWCSを与えた牛の糞便からもみ殻がついたままの稲穂を見つけたりした場合、そのトウモロコシや米は消化されていないので牛の栄養にはなっていませんよね。この様な「目に見える未消化物」は気付きやすいので、牛群の成績が上がらなかったり体調を崩す牛がいた場合、その原因として「消化されていない餌」にいち早く目を向けることもできるかと思います。
一方で厄介なのが、糞便をパッと見ただけではよく分からない「目に見えない未消化物」です。見た目にはっきりと分かる様な大きなゴロゴロとした未消化物が認められない糞便では、その中に入っている細かな未消化物に気付くのは極めて困難かほぼ不可能です。「糞便に未消化物が見えないからちゃんと消化されているだろう」という考えは、時として牛と餌の状態を見誤ることに繋がるため注意が必要です。
––– 糞便の状態を可視化して評価する –––
そこで活躍するのが「ダイジェスチョン・アナライザー」と呼ばれる道具です。これは、孔のサイズが異なる篩(ふるい)が2段または3段セットになった、餌の消化性評価をするための世界共通器具になります。使い方は非常に簡単で、糞便を最上段の篩に乗せてそこにシャワーで水をかけていく、これだけです。通称「糞洗い」とも呼ばれ、飼料の消化性評価を「最も簡単に」「素早く」「農場で」「誰でもできる」方法になります。篩の上段ほど孔のサイズが大きく下段に行くにつれて小さくなっているため、消化が不十分でサイズが大きな飼料片ほど上に残り、消化が進んでいるものほど下に落ちていきます。消化管の状態が良く餌をよく消化できているほど、上段が少なく下段が多くなります。
飼料を切り替えたり、新しいTMR内容に変わった場合、消化管内の微生物叢はすぐには新しい餌に適応し切れないため、牛は本来持っている消化能力を発揮できず、未消化物(篩の上〜中段)が多く出てくることは珍しくありません。また、どうしても消化性の悪い飼料原料を使わないといけない様なケースでも同様で、上段に出てくる未消化物が増加します。そうなると牛は、本来なら食べた餌から得られるはずの栄養が得られないため、思ったほど増体しなかったり乳量が伸びない、ということにつながっていきます。
この様な状態を防いだり、状況を改善することが出来るツールとして、飼料の消化を促進する「消化酵素製剤」が活躍します。
(次回に続きます)