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タイセイ飼料株式会社

獣医/分娩の管理(20) ― 良い牛に育てるために(16)

––– 初乳に影響を与える環境の要因–––
 初乳に関する話もいよいよ残り少なくなってきました。ここまで、以下の通り大きく4つのカテゴリーに分けて話を進めていますが、最後は環境の話になります。

(1)初乳の要因
(2)子牛側の要因
(3)母牛側の要因
(4)環境の要因 (←いまココ)

 この環境の要因ですが、ほとんどがすでに述べてきたお話の中に含まれています。あえて環境の要因を独立させることはないかも知れませんが、環境以外の3要因とも複雑に絡んでいますので、復習の意味も込めて改めてご紹介したいと思います。

● 牛床の汚染状況
 生まれたばかりの子牛は病原微生物に対してほぼ無防備であり、その侵入よりも先に初乳を飲まなければ移行免疫不全(FPT;Failure of Passive Transfer) に陥るリスクが非常に高くなります。生まれ落ちたところが汚れた牛床であると、子牛の口周りはほぼ確実に汚染され、その後の初乳吸収は絶望的になります。また、その様な環境にいた母牛の乳頭も汚染されている可能性が高く、それに吸い付くことによっても子牛は病原微生物に容易に感染します。牛床を綺麗に保つことは、分娩管理の最も重要なベースとなります。
病原微生物の汚染と初乳吸収の関係については、こちらのコラムをご参照ください。

http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=43
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=38

 なお、昨今は新型コロナウイルスの影響で輸入木材が入手困難になっており(通称“ウッドショック”)、その結果、製材副産物である「オガクズ」「バーク」なども入手困難か価格が高騰しています。牛床の敷材として広く利用されている製材副産物がこの様な状況であると、「分かっちゃいるけど牛床交換の頻度が落ちていて、床が汚くなってしまっている」という状況もあるかと思います。その様な状況下では、「子牛だけは何としてでも汚さない」という意識の切り替えも重要です。可能な限り分娩に立ち会って(必ずしも介助をするという意味ではなく)、破水後に子牛が出てきそうになった時はその場にビニールシートを広げて子牛を牛床に一切触れさせない、ということを実施頂いている牧場さんもいます。また、立位の分娩時やビニールシートで生まれ受けた子牛のその後は、飼料用のトロッコに長藁を敷き詰めた中に子牛を入れその中で母牛にリッキングさせると、病原微生物に汚染するリスクは極めて低く抑えられます。

獣医/分娩の管理(20) ― 良い牛に育てるために(16)

● 寒冷
 冬の北海道はもちろんですが、寒い環境下は子牛にとっては時に生命を脅かすリスクに直結します。たとえ環境温度が10℃前後であっても体が濡れた状態では、子牛の体温はどんどん奪われます。そうなると、子牛は生命維持のために脳や心臓への血流を優先し、腸管への血流が減るので初乳を飲むどころではありません。

 分娩後の子牛にとって、環境温度は最低でも気温15℃、理想的には20-25℃ですが、日本列島の冬季ではこの環境温度を維持するのは容易でない地域が多いです。解決方法としては、分娩房にだけジェットヒーターを利用する、生後すぐにカーフウォーマーに入れる、などが推奨されます。

(初乳と寒冷に関する過去のコラムはこちら)
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=46
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=48

● 暑熱
 暑熱は、生まれた直後の新生子に影響を与えるというよりは、胎子期における母牛を介した影響が非常に大きいです。母牛が暑熱の影響を受けることで初乳の質(IgG濃度)が低下し、胎子は出生後の初乳吸収率が低下します。
生まれてくる胎子のためにも、分娩前の母牛の暑熱対策は重要です。

(暑熱に関する過去のコラムはこちら)
http://www.taiseishiryo.jp/tp_detail.php?id=63

 なお、ここに記載した3点はいずれも母子ともに大きな「ストレス」になります。ストレスがかかった時に増加するホルモンであるコルチゾールは、胎子の胸腺の細胞を死に誘導することがわかっているため(Scudelettiら、1996)、母牛にとって粗悪な環境(牛床が汚い・濡れている・リラックスして寝られない・重度の寒冷・暑熱、など)での管理ストレス、子牛の生後ストレス(汚染環境・寒冷)は、胎子期〜新生子期の免疫機能を低下させます。そうなると、初乳をしっかり飲めたかどうかに関わらず、その後は常に疾病リスクが高くなってしまいます。

 分娩時の環境に気を配ることは、初乳を含めて母牛と子牛をトータルにケアしていく上で極めて重要だと言えます。もし母子の産後トラブルが多い牧場さんでは、まずは分娩環境の改善から取り組まれてみてはいかがでしょうか。