獣医/分娩の管理(12) - 良い牛に育てるために(8)
コラム
––– 初乳における母牛側の要因 –––
これまで数回にわたって初乳の重要性を記載してきましたが、子牛の疾病予防を目的とした初乳給与において、その目的が達成できるかどうかについて以下の2つのポイントからお話ししました。
●初乳の要因
●子牛側の要因
今回は3つ目のポイントである「母牛側の要因」をお話ししたいと思います。過去2つのポイントと重なるところもありますが、一度整理していきたいと思います。
(1)初乳量
これまで話をしてきた「初乳の要因」も「子牛側の要因」も「子牛に飲ませるだけの初乳がある」ということが大前提のお話でしたが、そもそもその初乳の量を確保できなかったり、最悪、初乳が無ければ話になりません。酪農家さんでは搾乳を行なっているので、その実際量がどれくらいなのか多くの方がご存知かと思いますが、和牛の繁殖農家さんではいかがでしょうか?母牛の初乳量はどれくらいかご存知でしょうか?
乳量は産歴によって大きく異なり、初産牛は非常に少ないことがわかっています。新宮ら(2002年)や小原ら(2005年)は分娩後の初回乳量について以下の様に報告しています。
● ホルスタイン・初産:4.6kg
● ホルスタイン・経産:9.9kg
● 黒毛和牛・初産:0.3kg
● 黒毛和牛・経産:1.3kg
ホルスタインの場合、さすが”乳用牛”ということもあり、初乳量は初産でもそれなりに出ます。一方、黒毛和牛では非常に少ない量しか初乳が出ません。初産牛ではなんと、「たった300mlしか初乳が出ない!」のです。これでは親につけて初乳を飲ませただけでは、初乳量が絶対に足りない(*)ことが分かります。
(*:以前のコラムで記載した「生後6時間以内に体重の5%以上/理想量10%が基準)
さらに黒毛和牛の場合、経産牛でも1.3kg(=1.3L)しか出ないので、初乳の“量”だけで見ていくとこの場合も絶対的に不足するということになります。
ここで重要になってくるのが、やはり「初乳中のIgG量またはIgG濃度」になります。子牛にとって大切なのは「IgG量としてどれくらい体内に摂取したか」であり、「初乳は出生体重の〇〇%以上」というのも初乳の品質によって量が変化します。IgG濃度を基準として、初乳の品質を簡易に評価する方法が糖度計(Brix値)でしたね。つまり、「Brix値20%以上の高品質初乳を6時間以内に体重の5-10%」というのが正確な給与基準になります。
では「超高品質」または「超超高品質」の初乳の場合、初乳として飲む量は少なくても大丈夫なのでしょうか?和牛の経産牛の初乳量は許容できる範囲内なのでしょうか?
具体的な話は次回になりますが、結論を先にお伝えすると「経産牛の初乳量は問題ない(初産牛はやっぱりダメ…)」と言えます。生後子牛の血中IgG濃度も含めて、「IgG量の推奨値から見た初乳量」を次回は考えてみたいと思います。